「4月から保険料が値上げされるから、終身保険に入るなら今が最後のチャンスですよ」。2012年の夏以降、こんな保険のセールスを受けた人はいないだろうか。実は、長期金利の低下によって、13年4月から生命保険の予定利率が引き下げられる可能性があるのだ。

予定利率とは保険料を決める要素の1つで、保険会社が積立金の運用利回りをあらかじめ約束するものだ。一般的な保険は、保険期間中ずっと同じ予定利率が適用され、予定利率が高いほど保険料は安くなる。

この予定利率の基準になっているのが、金融庁が発表する「標準利率」だ。標準利率は過去3~10年の10年国債の月平均利回りの中で、より低いものから算出される。11年、10年国債の利回りは1%前後で推移していたが、欧州危機などの混乱で12年4月以降は0.8%台まで低下。こうした影響もあり、これまで1.5%だった標準利率が12年ぶりに見直され、13年4月から1.0%に引き下げられることになった。

標準利率の引き下げによって、保険会社は予定利率を必ずしも引き下げる必要はないが、予定利率とはいわば保険料の割引率といえるものであり、引き下げなければ保険会社の負担が増えてしまうことになる。そのため標準利率引き下げ時には予定利率を下げ、保険料を上げる対応がなされることが多い。

大手生保各社は今回、予定利率を見直し、貯蓄型保険の保険料を上げる検討に入ったという。

たしかに、13年4月以降に入るより、今のうちに入ったほうが保険料は安くなる公算が高いが、今、加入する終身保険は本当におトクなのだろうか。時間を巻き戻して考えてみよう。

バブル全盛の1990年、保険金額1000万円の終身保険に30歳男性が加入した場合の保険料総額(60歳払込満了)は約370万円。一方、同条件での現在の保険料総額は約755万円。つまり、貯蓄性が重視される終身保険には入り時があり、そもそも予定利率の低い今、慌てて終身保険に加入することはおトクとは言い難い。

次に考えたいのが流動性だ。終身保険は一生涯の死亡保障を得るものだが、保険料の一部が生存時にも受け取れるよう積み立てられているので、長期間掛け続ければ、払い込んだ保険料を上回る解約返戻金を受け取れることもある。しかし、支払った保険料には保険会社の経費として消費される「付加保険料」、死亡保険金を支払うための「死亡保険料」が含まれており、すべてが生存時のために積み立てられているわけではない。したがって加入後短期間で解約すると、元本割れも少なくない。

急にお金が必要になっても銀行預金のように自由に引き出せるわけではないし、元本割れしていても解約しなければならないとなると、かえって損をすることにもなりかねない。とくに若い世代は、子どもの教育費や住宅資金などでまとまったお金が必要になることもあるので、加入は慎重に検討すべきだろう。

じっくり考えた結果、一生涯の死亡保障が必要だと判断するなら、今、終身保険に加入するのもいい。しかし、運用が目的なら保険にこだわらず、他の金融商品にも目を向けてみよう。

たとえば、12年10月に発行された個人向け国債(変動10年第40回)の初回の適用金利は、0.53%(税引き前)。1年たてば自由に解約できるので流動性は高い。中途解約すると直近2回分の利息相当額が差し引かれるが、元本保証で安全性も高い。

ほかにも、ネット銀行のキャンペーン金利など、探せばメガバンクの定期預金より有利なものはある。

目先の損得にとらわれず、保険に入る前には「本当に必要な保障なのか」「保険のほかにもよい商品はないか」を比較検討する習慣をつけたいものだ。

(構成=早川幸子)
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