普通に生活して、少しは風俗通いができれば十分

芥川賞作家 西村賢太氏

東日本大震災では僕自身もたいへんなショックを受けました。「自粛」という呪文のもとに、国中がいったん動きを止めてしまったのも、ある意味では無理のないことかもしれません。ただ、お花見くらいはいいとして、プロ野球の開幕日まで後ろ送りにしたのはゆきすぎだったと思います。華美であるとか享楽的なものはすべてやめておきましょうというなら、セックスだって自粛しなければいけません。でも、寝室では誰も被災地感情に配慮したりしないでしょう? 人から見えることだけを選んで「自粛」するなんて、おかしいですよ。偽善的で嫌ですね。

偽善といえば、震災の後、東京ではコンビニのレジなどあちこちに義援金の箱が並びました。僕は1円も寄付していないんです。勢いよく「100億円を寄付するぞ」と宣言した経営者もいるようですが、そうすることで、その方やその方の経営する会社は大きく潤うというじゃないですか。そこまでいかなくても、多額の寄付をしたと公表する作家がいますよね。僕はひねくれ者なので、こういうことには素直に感心できません。