ビジネス・ブレークスルー大学教授 
平野敦士カール氏

のべ5000人以上――。これは私が昼食をともにしてきた人数です。たとえば午後1時から渋谷で予定があれば、その近辺に勤める知人をランチに誘う。こんな調子でほぼ毎日誰かとランチをする習慣が始まって、20数年がたちます。私はこの習慣を「アライアンス・ランチ」と呼んでいます。

現在私は大前研一氏が学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学で「プラットフォーム戦略論」を教えています。これはGoogle、Facebook、楽天などの21世紀の勝ち組企業に共通している戦略です。一言でいえば様々なグループや人が集まる「場」(=プラットフォーム)をつくることによって自己増殖的にビジネスを拡大していく戦略のこと。そしてプラットフォームに参加してもらうためにはいろいろな企業や人との提携(=アライアンス)が必要なのです。

大きなプロジェクトを成功させるためには、「1人で1億円を稼ぐより、10人で100億円稼げる仕組み」をつくらなければなりません。その前提となるのが、プロジェクトメンバーの信頼関係です。ランチの習慣は、人との信頼を築き、「自分をプラットフォーム化する」ための方法なのです。

Facebookやtwitterなど、最近とみにソーシャル・ネットワークが浸透しています。人と人がオンラインで頻繁につながる。こうした状況にあるからこそ、フェイス・トゥ・フェイスで会話をする価値が高まっています。

ただし、大規模な異業種交流会で名刺交換をしただけでは、関係を深めることは難しい。相手の考えを深く聞いてみたいと感じたら、躊躇なく会う。「ランチをご一緒しませんか」とダメもとで誘ってみる。私はそう心がけています。

初対面であっても、食事の席では不思議と人は饒舌になるもの。会議室では決して出てこない話が飛び出ることもあります。「ここだけの話、あの件、実はね……」とこっそり教えてくれる。もちろん、会っていきなり仕事モード全開では失礼ですが、食事という行為が有益な情報の入手に一役買ってくれるのです。

一緒に食事をすると、自然と互いに親近感が湧いてきます。ならば、ディナーのほうがゆっくり話をできるからいい、という人もいるでしょう。しかし、私はあまり好みません。お酒が飲めないこともありますが、食事後に2次会、3次会と続き、結果的に相手を長く拘束してしまうことが少なくないからです。私は就寝前の読書を日課にしていますが、それもできなくなってしまう。

では、今はやりのパワーブレックファーストはどうでしょう。個人的には悪くないと思いますが、偉い方にはなかなかお願いしづらいものです。

そう考えたとき、やはりランチは手頃で魅力的です。何しろ仕事の合間の約1時間の間に腹ごしらえをしつつ話をすることができる。極めて効率的です。