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吉野家ホールディングス会長 安部修仁(あべ・しゅうじ)
1949年生まれ。福岡・香椎工業高校卒。72年吉野家(現吉野家ホールディングス)入社。専務、日本ダンキンドーナツ(98年に事業撤退)社長などを経て91年吉野家ディー・アンド・シー(当時)社長。2012年会長。


 

昨年9月、吉野家ホールディングス(HD)の社長が20年ぶりに代わり話題となった。新社長となった河村泰貴氏は43歳(当時)。最終学歴は高卒で、アルバイトからのたたき上げでトップに上り詰めたことが耳目を集めた。

だが、会長に退いた安部修仁氏が「依然として経営に大きな影響力を持っている」(外食大手)との見方は多い。安部氏が吉野家HDの代表権を手放さず、吉野家HD傘下の主要事業会社「吉野家」の社長に引き続きとどまったからだ。

安部氏と河村氏の経歴は似ている。工業高校を卒業し、ミュージシャンを目指したこともある安部氏はアルバイトを経て吉野家に入社。吉野家ディー・アンド・シー(当時)のトップに抜擢されたのは42歳で、牛丼単品主義で早さ、安さを追求して営業利益率10%超の高収益を実現した。2001年には400円の牛丼を280円まで下げ、一時はデフレの勝ち組と呼ばれた。

だが、03年に米国でBSEが発生すると状況は一変。米国産牛肉にこだわったことがあだとなり、08年には豪州産牛肉を使って価格競争力を付けた「すき家」に店舗数で抜き去られた。「安部時代の後半10年は失われた10年」(外食幹部)との厳しい評もある。

吉野家が現在追求するのは高付加価値路線で、昨秋投入した牛焼肉丼(480円)、焼鳥つくね丼(390円)がその代表格。一方で低価格路線も捨て切れず、業界最安値の250円牛丼店「築地吉野家 極(きわみ)」を今後3年で100店に増やす構想もある。2月から米国産牛肉の輸入規制緩和もあり、激安牛丼店展開には安部氏の強い意志が働いたとされる。「泥沼の価格競争を招きかねない。価格政策が迷走している」(アナリスト)との懐疑的な見方を払拭できるか。吉野家は正念場を迎えている。

(PANA=写真)
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