なぜ都市銀行と中小企業はミスマッチなのか

その際、「メーンバンクシステム」論が主として注目したのは、大企業と都市銀行との関係であった。しかし、両者の関係は、80年代以降、大企業が徐々にエクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)へ軸足を移したことによって、変容をとげるに至った。大企業が、都市銀行からカネを借りなくなったのである。

都市銀行は、大企業に代わる新たな貸出先を求めて、中小企業向けの融資に力を入れ始めた。しかし、都市銀行と新規の借り手である中小企業との間には「長期にわたる濃密な関係」が成立していなかったので、情報のやりとりは不十分なレベルにとどまり、都市銀行のモニタリング機能は十分には作用しなかった。

そこにバブル崩壊後の長期不況の影響が加わり、都市銀行が新たに取り組んだ中小企業向け融資のかなりの部分は焦げ付き、不良債権と化した。このことは、メーンバンクのモニタリング能力そのものに対する不信感を強めることとなり、「メーンバンクシステム」論は急速に影響力を失った。

「メーンバンクシステム」論の後退は、中小企業を対象にしてメーンバンクシステムを作動させることが不可能であることを意味するのだろうか。答えは、「否」である。

バブル崩壊後の長期不況下でメーンバンクシステムが有効に機能しなかったのは、あくまで、都市銀行と中小企業という組み合わせがミスマッチだったからである。組み合わせを地方金融機関(地方銀行・信用金庫・信用組合など)と地元中小企業とに替えれば、メーンバンクシステムは効果的に作動する可能性が高い。

メーンバンクシステムが有効に作動するか否かは、企業と金融機関との間で濃密な情報のやりとりが行われ、金融機関のモニタリング機能が十分に作用するかどうかにかかっている。濃密な情報がやりとりされるためには、できるだけ「顔の見える関係」が成立していることが望ましい。そのような関係が成立する範囲は、おのずと地理的に限定される。せいぜい一つの都道府県くらいの大きさが、限界と言えるだろう。