「顔の見える関係」が地域ブランドを作り出す

「顔の見える関係」は、資本主義の発展とともに、匿名の市場取引によって後景に追いやられ、その役割を終えたかに見える。しかし、現実には今日でも、産業集積、農商工連携、まちづくり、地方版メーンバンクシステムなどの形をとって「顔の見える関係」が地域ブランドを作り出し、そのブランドが、地域を越えて(場合によっては国境を越えて)、製品への注文、観光客としての来訪などの形をとって匿名の外部市場から需要を呼び込む。これが、地域経済活性化を通じた日本経済再生の途である。

景気回復過程における中小企業金融のあり方について重要な示唆を与えるのは、前回の景気回復時の経験である。ここで、前回の景気回復過程のさなかに発表された03年版『中小企業白書』の内容の一部を紹介しておこう。

03年版『中小企業白書』に掲載されている中小企業25万1490社を対象とした調査によれば、1998年度に「資産超過・経常赤字先」であった中小企業の47.7%が、01年度には「正常先」となった。また、98年度に「債務超過・経常黒字先」であった中小企業の16.5%が、01年度には「正常先」(14.4%)ないし「資産超過・経常赤字先」(2.1%)となり、財務状況を好転させた。

さらに、98年度に「債務超過・経常赤字先」であった中小企業の44.4%が、01年度には「正常先」(9.1%)ないし「資産超過・経常赤字先」(1.9%)ないし「債務超過・経常黒字先」(33.4%)となり、財務状況を好転させた。

このような状況を考慮に入れると、金融機関は、目先の業績だけでなく、長期的な業績好転の可能性も視野に入れて、中小企業向け資金貸し付けを行うべきだと言うことができる。大企業の場合と異なり、中小企業の場合には、今日でも、資金調達手段に占める銀行借り入れのウエートが大きい。この点は、創業しようとする者の場合も、同様である。

これらの資金借り入れ需要へ的確に対応するためには、銀行等の金融機関が、事業地域を限定しターゲットを絞り込んで、きめの細かいモニタリング能力を発揮する必要がある。長期にわたる濃密な中小企業・金融機関間関係を形成すること、つまり地方版メーンバンクシステムを形成することが、求められているのである。

ところで、企業と金融機関との関係が長期にわたり濃密であるならば企業金融が円滑に進展するという議論は、かつて一世を風靡した「メーンバンクシステム」論に相通じるものがある。

「メーンバンクシステム」論は、インサイダー・コントロールの弊害を抑えながら企業メンバーの努力を引き出す面でも、モニタリング費用を節約する面でも、それが効果的であることを主張した。