いま、日本人のタフさ、強靭さが世界で評価されています。米国のあるメディアの社説において、日本の建築基準が非常に優れているため、地震の規模を考えると、被害が少なかったのでは、という評価がなされています。確かに今回の被害は大変なものですが、それでも翌日から新幹線が動いているし、やはり日本はしっかりしたモノをつくっているなという印象が強いのです。

<strong>エコノミスト ロバート・フェルドマン</strong>●1953年、米国生まれ。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金、ソロモン・ブラザーズを経て、98年モルガン・スタンレー証券入社。現在、モルガン・スタンレーMUFG証券経済調査部長。
エコノミスト ロバート・フェルドマン●1953年、米国生まれ。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金、ソロモン・ブラザーズを経て、98年モルガン・スタンレー証券入社。現在、モルガン・スタンレーMUFG証券経済調査部長。

1981年に建築基準法が改正され、新耐震設計基準が設けられました。基準をクリアするにはかなりのコストがかかるにもかかわらず、特に大きな反対は起きなかったようですね。日本人は、正しいことには費用がかかっても反対しない。海外に目を向ければ、目先のコストについて、そう簡単には賛成を得られないだろう国もたくさんあります。30年前の日本人の対応がいま、報われたといえるのではないでしょうか。

今後、日本がやらなくてはならないことは、2つの段階に分けられます。まず、被害状況の把握や企業の生産設備などの確認です。今回は、阪神淡路大震災と比べても被害が大きく広かったので、かなり時間と資源(資金、労働力、設備)がかかるのではないでしょうか。

そしてその後、復興へと向かうわけです。その際に、労働力、資源、技術力といったものをどこから持ってくるのか。多くの人や機関が連携しないとできないことです。このときに、日本人は社会の連携や、一体感というものを感じ、見直すのではないでしょうか。余計な諍いさかいなどをやめ、助け合って復興していく。国内がまさに壊滅状態になった第二次世界大戦の焼け跡からですら、日本人は見事な回復を遂げたのです。そんな能力の高さと粘り強さをもってすれば、きっと回復できるはず。

日本人のすばらしいところは、今回のような大惨事が起こっても、都市はパニックを起こさず、秩序を乱さず、ほとんどの人がきちんと自分の仕事をしようとしているところです。これも、政治的なリーダーシップが疑問視されている国ではうまくいかないことが多いと思います。

もともと非常に厳しい財政状況の中、どのように国民にフェアな形で復興の負担をしてもらえるかが、今後、最も重要になってきます。方法は基本的に次の3つしかありません。(1)お金を印刷する、(2)増税する、(3)子ども手当など優先順位が高くないと思われる歳出をカットする。もちろんすべて必要なことですが、どこの比重を高くするかによって復興のスピードは変わります。増税に重きを置いた場合、復興は遅れるでしょう。日銀が今回、素早く動いたことは市場の安定性という意味で心強かった。ただ、金融市場の安定と復興は違います。政府が方針を決めないかぎり、日銀も復興に向けてなかなか動けない。まずは(1)の財政出動で、資源を上手に動かしていくほうが経済的には効率的だと思います。

一人しかいない総理大臣を、まずはみなで支えなくてはなりません。ただ政界を批判している場合ではないのです。むしろ、どうやったら国民が一体となり復興のために動けるかを考えるべきで、そういった意識は誰しも共通のはず。限られた資源をどう効率的に使うか考えながら、まずは目の前の仕事をきちんとやることが大切なのではないでしょうか。

今回、日本経済は間違いなく大きな打撃を受けました。しかし、経済状態が悪くなるということは、すなわちハングリー精神が生まれるということだと思います。国際社会における日本の信頼感というものは、まだまだ揺らいでいません。有事によって、日本人が本来持つ強さを存分に見せてくれることを、おそらく世界中が期待しているのです。

(木下明子=構成 久保田正嗣=撮影)