2013年5月2日(木)

おいしいサラダ、つくれますか?

dancyu 2012年1月号

文・大石勝太

ある日のこと、知り合いの家でちょっとした集まりがあり、みんなで昼食を食べることになった。知り合いが用意した料理をテーブルに並べ、「サラダに味つけしておいて」と言われた僕は、レタスやきゅうりが入ったボウルに塩をふり、オリーブオイルをかけて混ぜようとした、そのとき。そばにいた旧知の料理人がひと言。

「それは違いますよ」

レタスなどに塩をふると水分が出て水っぽくなり、葉もしんなりしてしまう。だから、最初にオリーブオイルで葉をコーティングしてから塩をふって味をつける。そうすれば、水っぽくならずに瑞々しさを保った状態のままで、味もしっかりつけられるのだと……。

なるほど、ちょっとした違い、僅かな気配りで味が変わってしまうのだ。特にシンプルなサラダのような料理では、この差が大きくなるのだろう。実際、僕が味つけしたサラダはすぐにしんなりして、見るからにおいしくなさそう。食べてみても、水っぽい。サラダというよりおひたしだ。

一方、その後に料理人が味つけしたサラダは瑞々しく葉が立っている。見ただけで違いは明らか。食べてみたら、野菜の葉の食感がきちんと感じられる。

「おいしいものをつくるには、ちょっとした気配りが大切なんです。僕たちプロは体で覚えているから自然にできるけど、素人が料理をつくるときは頭で意識しながらつくったほうがいいですよ」と料理人。

たとえば、サラダであれば、まず野菜の水気をしっかりきる。当たり前のようだが、さっと水をきったのと、キッチンペーパーなどで葉のひだの間の水分までしっかり取ったのとでは、口に入れたときの感触が違ってくる。それを包丁で切るのと、手でちぎるのとでも味が異なる。包丁で切ると、野菜の繊維をきれいに断ち切ってしまうので、口に入れたときに繊維の感じが少なくなる。手でちぎった野菜は繊維がざっくりと切れているので、食べたときにより繊維を感じ、それが野菜を食べているおいしさにつながるのだという。

「その野菜の食感を生かすために、オリーブオイルや塩は、少量をさっとふって早めに食べたほうがいいわけですね……」

「違います! まだわかっていませんね。葉の表面の水分はしっかり取って、葉の中の水分はキープする。そのために、塩をふる前にオリーブオイルでコーティングするのです。ということは、全体に行き渡るように、しっかり混ぜなければいけません」

もちろん、混ぜすぎると野菜の繊維が壊れてしなってしまうので、手早くしなければいけないが、それでも全体をコーティングするように十分に混ぜることが必要だという。さらに、「混ぜる」というと、全体をぐるぐるかき回しがちだが、野菜を守りつつオイルをなじませるには野菜をふわりと持ち上げるように、上の方向に混ぜるようにするといいとか。

「そもそも、素材に手を加えずにできるだけそのままの状態で食べることが『素材の味を生かすこと』と思っている人が多いですよね。これは、半分は正解ですが、半分は間違いです。手をかけすぎて本来の味を壊しては意味がありませんが、たとえばサラダのようなシンプルに素材を食べる料理の場合、素材そのままの状態より、オイルをかけ、塩をふったほうがより野菜本来の味を引き出せることもあるのです」

さらに、複数の種類の野菜が混ざったサラダの場合、味が均等になるように厚みのある野菜は小さくちぎったり、薄く切ったりするなどの気配りもしているのだとか。サラダに限らず、素人とプロの味の差はテクニックだけではなく、こうした細かな気配りにもあるのだろう。

試しに、この料理人が言う方法でサラダをつくってみてほしい。見た目や味わいが大きく変わることに気づくはずだ。「そうした違いに気づくことが大切なんです。その驚きや経験を重ねていくことで、料理の腕が高いレベルに進化するはずですよ」と、その料理人は言っていた。

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大石 勝太