「理科読(りかどく)」とは理系の本を読むことで、学校で児童が始業前に本を読む「朝読(あさどく)」や家で本を広げる「家読(うちどく)」と類似の読書運動である。

本書は理系本を読む文化を広める3回のシンポジウムを基に編まれた。雑誌「かがくのとも」編集長、中学図書館の司書、啓発活動に熱心な大学教授、科学読物研究会のメンバーなど理科読運動に関わる12人の練達者が、柔らかい文体で熱い思いを綴る。副題に「子どものふしぎ心を育てる12のカギ」とあるように、優れた理系本を児童に紹介し科学に親しむ心を育もうというのである。

実は、理系本は世間であまりよい待遇を受けていない。たとえば、朝読の時間に子どもが科学読み物を広げていたら、文系出身の先生が「そんな本ではなく、ちゃんとした本を読みなさい」と言ったそうである。朝読に取り組む熱心な先生ですら、科学の本は読み物とは認めていないのだ。「理科読」運動はこうした状況を何とか変えようと始まったのだが、評者自身も科学書を広めようとして同じ壁に当たり苦労したのでよくわかる。

科学読み物は年間に「なんと200~400冊も出ている」(viページ)のに、本屋の店頭ではなかなか見当たらない。そこで本書は優れた理系本を紹介し、具体的な特徴を述べながら読み方を披露する。「一つの真理をじっくり取り上げた本」「やさしくておもしろい本」「だれにでも追体験できる実験ののっている本」(56~60ページ)など、カテゴリー別に利用法までわかりやすく開示する。

科学読み物は評価が低い一方で、ビジネス界では理系的思考法を現場で活かそうという需要が多い。ロジカルシンキングの執筆依頼が評者にもたくさん寄せられるのだが、論理的な思考を訓練しようと思ったら理科読がなければ無理なのである。

では、理科読のメリットとは何だろうか?「科学に興味をもち、科学的な知識を手に入れると社会を見る目が変わる」こと、また「たくさんの視野でものを見るようになるし(中略)社会を多面的にとらえられる」(94ページ)点である。

実は、大人が専門外の科学を勉強する際にも、子ども向けの本からスタートするのがいい。評者も岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書といった青少年向きの科学読み物を執筆してきたが、こうしたシリーズでは論理的な内容を専門家が噛み砕いて解説している。よって「大人の科学入門書としてもおすすめ」(viページ)なのである。

各章の末尾に設けられた「おすすめの5冊」コーナーは大層便利だ。子どもに与える本を選ぶ案内であることは言うに及ばない。評者も知らなかった良書が多数掲載されており、通読すれば数十冊に及ぶ科学読み物の世界を知ることができよう。