「今の会計制度だと、単年度ごとの損益計算書で人件費を計上している。つまり、人材を経費扱いしているわけだ。人材は本来、貸借対照表上の自己資本の資産として長期的に評価すべきである。そうやって社員の生活を安定させ、将来への不安をなくすことが肝心なのだ」

ただし、こうした考え方に至るまでには曲折があったと、加藤会長は振り返る。

「私は若い頃、利益追求に目の色を変え、社員に自分の意見を押し付けたり、叱りつけたりしていた。そうしたせいか、社員が入っては辞めてのくり返しで、技能の伝承どころではなかった」

6軸自動旋盤を使いこなすのには、50年以上の経験を持つベテラン工の「肩から力を入れる」「肘から力を入れる」などの技能を、現場で1つひとつ学んでいかなくてはならない。

社員数は30人以上に増えず、売上高も10億円を突破できない。そういう状態が約20年続いた。しかし、45歳のとき、『もとはこちら』(平井謙次著)という本に出合って、加藤会長は人生観が変わったのだという。

「その本には『泥棒に感謝せよ』と書いてある。泥棒が入ったからこそ、用心するようになった、おかげで自分は成長できたと、プラス思考で物事を見ようというわけだ。まさに目から鱗が落ちた思いで、会社が大きくなれなかったのは、私自身に問題があったからだと悟った。そして、人を見る目のない私が人事評価をするよりも、年功序列で評価したほうが間違いないと考えるようになった」

勤続年数が長くなれば、仕事の習熟度は誰でも確実に上がるという考え方が、エイベックスの年功序列のベースにある。「たとえば、毎日遅刻せずに出勤することもなかなかできることではない。そうした社員の長所を見つけて評価することを心がけている」(加藤会長)。ただし、能力や成長のスピードには個人差がある。