大手メーカーが海外に生産拠点を次々と移すなか、自らも海外に進出したり、あるいは仕事を失ってリストラや廃業に追い込まれたりする下請けメーカーが少なくない。ところが、100%国内生産に徹し、終身雇用と年功序列による人事制度を堅持しながら、業績を順調に伸ばす下請けメーカーもある。それが名古屋市の機械部品メーカー、エイベックスだ。

エイベックスではバルブを日産30万個も製造している。その工場にある機械や治具は現場の知恵を活かして改良・改善をしたオリジナルのものばかりだ。

エイベックスの2012年5月期の売上高は、前期比36.3%増の32億300万円。リーマンショックに見舞われた09年5月期の売上高は、16億5900万円まで落ち込んだが、わずか3年でほぼ倍増したことになる。

主力製品は「スプールバルブ」という自動車部品だ。スプールバルブは、AT(自動変速機)の油圧制御装置に使われる、手の指ほどの大きさのバルブ。世界各地に競合メーカーがひしめいているが、エイベックスは世界一のAT専門メーカーであるアイシン・エイ・ダブリュをメーンの取引先として、スプールバルブの世界シェア約8%を握っている。「当社には海外と戦えるコスト競争力がある。価格ではベトナムのメーカーにも負けない」と、同社の加藤明彦会長は胸を張る。

コスト競争力が高いのは、独自に工夫した生産ラインに秘訣がある。

スプールバルブは、コンピュータで制御する「NC自動旋盤」という工作機械で、鉄やアルミの丸棒を研削して作るのがふつうだが、エイベックスでは「6軸自動旋盤」で作っている。NCは旋盤の1つの軸で、さまざまな加工を行う。これに対して6軸は文字通り旋盤の軸が6つあり、6つの部材の加工が同時にこなせ、据え付けの手間も省ける。「6軸の時間当たりの生産性は、NCの約10倍」(加藤会長)という利点があるのだ。