10億は売るから単価を出して

その立て直しに当たったのが岡崎氏である。20代半ばに仕事と併行して通ったビジネススクールでMBAを取得し、その知識を生かして部の業績を大幅に向上させた手腕が認められ、事業本部長として送り込まれたのだ。

イノベーションの執行役員を務める田崎雅幸氏。

しかしビルの着工件数が激減し、市場縮小に歯止めがきかない状況では、いくら知恵を絞っても有効な打開策は見つからず、危機感だけが募っていった。

「魚のいない池に釣り糸を垂らしても、釣れるわけがない。ならば過去の延長でなく、まったく新しい市場でヒットするすごい製品をつくるしかない」

岡崎氏は、諦めるどころか逆に発奮したという。それからは、断熱工事に代わる「すごい新製品」の実現に向け、猛ダッシュが始まった。

そこに思わぬ福音が訪れる。ある営業担当者が、顧客の「木造住宅の屋上に庭をつくりたい」という声を持ち帰ったのだ。

ビルの屋上緑化が得意で、幾度となく屋上庭園を施工してきた同社も、木造住宅となるとまったくの未経験。しかも試算によれば、住宅の屋上緑化は原価だけで170万円かかる。当時から岡崎氏の右腕として商品開発に携わってきた田崎雅幸氏は、「そこまで多額の費用をかけて屋上に庭をつくる人はいないだろう」と考えた。

しかし岡崎氏は諦めず、「(庭園風ではない)普通の瓦屋根はいくらだ?」と尋ねてきた。

「100万ぐらいと違いますか」と答えた田崎氏に、「じゃあ100万円で屋上庭園をつくるぞ!」という岡崎氏の勢いに満ちた声が返ってきた。

「驚きましたが、同時にうまいやり方だと感心しました。屋根と同価格で屋上庭園にできるなら、お客様は俄然買う気になるでしょう?」(田崎氏)

こうしてアイデアは固まったが、本当の勝負はここからである。原価170万円の屋上庭園を、どうやって売価100万円までコストダウンするか。

そこで岡崎氏が編み出したのが「商品のパッケージ化」戦略だった。業界の常識である「顧客の要望に合わせてカスタマイズするフルオーダー制」をやめ、仕様を定型化していくつかの庭園パターンに集約する。パッケージ化によって、設計の打ち合わせなどの手間を大幅に省いて販売管理費を下げ、同時に仕入れ価格を抑制するためだ。

例えば屋上庭園には床材、芝などの植物、防水設備、水やり装置などが必要だが、その部品や施工業者は、顧客の要望通りになるよう、事前に複数のサプライヤーと交渉しておくのが慣例である。しかし岡崎氏はサプライヤーを一社に絞り、大量発注をかける代わりに値引きに応じるよう持ちかけた。

「俺たちに任せてくれれば必ず売ってみせる。10億は売るから、そのつもりで単価を出してほしい」

交渉先で岡崎氏はそう熱弁をふるった。さらにビル緑化と共通化できる部品は共通化し、発注ロットを増やしたので、サプライヤーにとっても、この取引は悪い話ではなかった。

参考にしたのは、カルロス・ゴーン氏が日産自動車で部品の共通化を指示し、製造コストを圧縮して経営再建を図った手法だ。このときの商品は屋上庭園のみで、住居部分には手をつけていないが、これが「イノベーション」の第一段階となった。

最終的に同社初の住宅向け屋上庭園は、「50平方メートルで99万円」という破格の売値で発売された。床面を芝生とタイルで覆った、ベーシックにして「庭園気分」が満喫できるスタイルである。