大学はバックアップ

鈴木丈治さん(仙台第一高校2年)。

鈴木丈治(すずき・じょうじ)さんは、仙台のナンバースクール筆頭の宮城県立仙台第一高等学校の2年生。「最近は二高のほうが(進学実績は)いいみたいですけど」と言っていたが、他校から見れば一高と二高の「競争」は、僅差の拮抗となる。さて、鈴木さんは将来何屋さんになりたいですか。

「自分で何かを始めたいっていうのがあって。ただ、アメリカから帰ってから、ITとかコンピューターとか、そっち系にかなり興味が湧いてきて、たとえば、どこかの大きな会社に働くのもいいなって最近思い始めたんですよ。たとえばグーグルとか。そういう大きい会社で働くとなると——特にグーグルやアップルだと、学歴が重視されて、大学卒業は当然で、さらにマスターズ(修士)を持っていることが求められるんで、まず、その学歴を、今のまま順調に行くように頑張りたいです」

ビジネスを始めたいと思うようになったきっかけは。

「ボケーッとしてると、アイディアとか思い浮かぶんですよ。このあいだ思い浮かんだのが、イベントに集客するビジネス。イベント情報を1つのサイトに集めて、そのサイトに人が自分の興味・関心事項に印を付けて登録することによって、ネットの管理者側が登録者の興味・関心に合わせてメールを送信する。そういうシステムがあったらいいのになあとか思ったり。きっかけって、自分ではよくわからないんですけれど、たぶん、夕食のときとかに親といろいろ話していることもあるのかな。小さいころから海外に連れて行ってくれたりとか、親がいろいろ経験させてくれたことも大きな影響があったと思う」

親御さんは何屋さんですか。

「宮城学院女子大の英語の教授です。イギリスで中学校を出て、働き始めれば社会に通用すると思って、高校行かずに就職したらしいんですけど、結局、駄目だっていうことに気付いて大学に入って。それからJETプログラムの一環でALTとしてこっちに来て、仙台とか松島の高校で教えているときに、母と知り合ったそうです」

JETプログラムとは、全国の自治体で1987(昭和62)年から行われている「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略称。このプログラムで日本にやって来る外国青年の9割近くがALT(外国語指導助手:Assistant Language Teacher)として学校(もしくは教育委員会)に配属され、日本人教師の助手として外国語を教える。鈴木さんのお父さんは、これに参加してイングランドからやってきた。

お母さんは何屋さんですか。

「松島でガス屋をやっているおばあちゃんのところで、会計の仕事をしています」

鈴木さん自身はイギリスの経験は。

「イギリスで生まれて、ちょっとしたら日本に来て、幼稚園は日本。小学校では英語の経験とかを積むためにということでイギリスに戻って。またこっちに戻ってってかんじです」

鈴木さん、実業家になるには何が必要ですか。資格は要らないですよね。

「要らないですね。あとは、ITだと、どこをベースにするかにもよるけれど、いちおう英語は普通にできるようにしておくってことと、あとパソコンの使い方は、自分ではまだ学ばないといけないなと思って」

今の話の中に「大学に行く」がありませんでしたね。

「行きます。バックアップ的なかんじで。(実業家になることに)失敗することもあると思うんですけど、そうなったとき、特に日本は『最低でも四年制大学は卒業してないと、この仕事に応募できません』とかうるさいるから、まあまあいいところの大学は出ておいて」

鈴木さんが考えるところの「まあまあいいところの大学」はどこですか。

「日本だと国際基督教大学(ICU)か慶應義塾大学。ICUは英語の配点でかいんで、それで楽に入れるかなと。いちおう、英語は準1級取ってます」

英検(実用英語技能検定)準1級は、7段階ある英検の上から2番目。2012(平成24)年度の合格率は14.9%。鈴木さんは9月の取材時には、進学先としてLSE(The London School of Economics and Political Science)の名も挙げていた。投資家のジョージ・ソロス、合州国第35代大統領J・F・ケネディ、そしてミック・ジャガーの母校だ。但し、4カ月後の追加質問への返信には「日本の大学から編入することもできるらしいので、まずは日本の大学に行くことにしました」と書かれていた。

イングランド出身のお父さんを持ち、かの地で暮らしたこともある鈴木さんの経験は、仙台や東北、日本というものを相対化して見ることができるだろう。ぜひ鈴木さんにこれを訊きたい。こちらは、ここまでの取材で「できれば東北にいたい」「いつかは戻ってきたい」という高校生の声を複数回聞きました。そういう意識は鈴木さんにはありますか。

(明日に続く)

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