人事部の労務課長時代に、長野県・松本西や東京都・調布の配送拠点で、ある実験をやった。配達地域で最も多くが在宅している時間帯を調べ、その間に、集中的に集配に回る方式だ。うまくやれば、不在で再配達にいく必要がなくなり、ドライバーたちの残業が減った。

その方式を、大阪で本格的にやってみよう、と考えた。前号の「クール宅急便」の開発で触れたように、時代の変化に応じて刻々と変わるニーズを、的確につかむ市場調査と攻略策を練ることが好きだ。それに、部下たちが理解するまで説明を重ねる時間が惜しい。だから、自ら駅前に立って調べた。46歳。「妙なおじさんが立っているな」と思われたかもしれないが、リーダー自身がやってみせることは、部下たちにとって何よりの教材だろう。

南港では、主婦たちの大半が朝9時までなら自宅にいることがわかった。でも、あまり早く配達にいっては、迷惑になる。追加のデータを集め、朝7時半から9時の間に一気に集配しよう、と決めた。そのためには、かなりの人数を集めなくてはならない。とりあえず、新入社員たちを応援に出し、何棟かで始めてみたら、見事なほどに成果が出た。対象をポートタウン全域へと、広げる。

次いで、大阪市の船場から北浜へかけて繊維問屋が並ぶ商業地を担当し、苦戦していた拠点長が、お客に「望ましい配達時間と集荷時間」のアンケートをやってみた。すると、朝の9時から11時と、夕方の4時から6時に、答えが集中した。拠点長から相談を受け、その時間帯に配達と集荷を徹底するために、パート女性の募集を始める。

朝夕に2時間ずつだけ集って、その間はいなくていい異例の勤務。人が集まるかと心配するむきがいたので、時給を1500円にした。バブルがはじけた後としては、破格の水準だ。本社に「高すぎる」との声もあったが、4時間で6000円。普通のパート仕事の1日分と同じくらいになれば、いい人が集まるだろうと考えた。老舗問屋が多い配達地域で、むずかしい旦那やおかみもいるから、人材の質を優先した。