顧客の「反応」ではなく「行動」に着目した測定法

数年前、こうした測定にまつわる問題について解決できたと、われわれが考えた時期があった。当時、われわれは顧客維持率、再購入比率、「シェア・オブ・ウォレット(顧客の同商品カテゴリーへの支出総額に占める自社のシェア)」など、一連の重要な指標をすべて揃えるように顧客企業と取り組んでいた。ところがその後、現実の壁に直面することとなった。

ロイヤルティに関するこうした指標を、正確にかつタイムリーに収集できない企業が大半を占めたのである。そうした企業には、そもそも優先順位を組み直し、良好な顧客リレーションシップの構築に責任を持たせることなど不可能だった。15世紀に複式簿記が登場して以来、利益を測定する方法は着実に発展を続けてきた。しかし、顧客とのリレーションシップの質の測定方法は暗黒時代のままだった。企業には、顧客リレーションシップの変化の度合いを測定し、データに基づいて適切な従業員に適切な行動をとらせるための、実用的で信頼できる運用システムが存在しなかったのである。

そこで、われわれはもう一度原点に戻って考え直すことにした。誰にでも簡単に使える測定方法が必要だった。リレーションシップに対するロイヤルティを測り、良き利益と悪しき利益を明確に識別できる実用的な指標が求められていたのである。それは従業員に責任を持たせることができるような指標でなければならない。顧客満足度調査に対して顧客が示すような移ろいやすい態度では、ロイヤルティを把握できないのは明らかだった。ロイヤルティを測る尺度となりうるものも、成長の原動力となりうるものも、実際の顧客の行動をおいて他にはない。こうして私たちが行き着いた結論は、顧客の行動こそが、根幹をなす要素でなければならないということだった。求めるべきなのは、実際に顧客がとるであろう行動に基づく指標だったのである。

かなりの量の調査と実験を経て、こうした条件を満たす指標が1つ見つかった。それは顧客にただ1つの質問をすることだった。その質問は顧客の行動と密接に関連していて、事実上、顧客の将来の行動の代用変数として使うことができる。この質問を適切かつシステマチックに尋ね、その結果に従業員の報酬を連動させることで、良き利益と悪しき利益を識別できる。また、現在の利益志向の経営と同じくらい厳格に、顧客ロイヤルティとそれがもたらす成長を志向する経営を推進できるのである。

この質問に対する顧客の回答から、単純明快な指標を導くことができる。この単純で測定しやすい指標を使えば、顧客を大切に扱うことを従業員の責任に盛り込めるようになる。これこそが、自社がどれだけ顧客志向になれたかを示す単一(ワン・ナンバー)の指標である。この指標の基になる質問を、われわれは「究極の質問」と呼ぶことにした。それは、この質問こそが、自社がどれだけ人々の生活を豊かにするかというミッションにおいて、どれだけ成功しているかを示すものだからである。しかしよく考えてみると、本当は「最後から2番目の質問」と呼ぶべきだったかもしれない。なぜなら、「それはなぜですか」というもう1つの質問をその後に続ける必要があるからだ。

※この記事は、プレジデント社2月新刊『ネット・プロモーター経営』(フレッド・ライクヘルド、ロブ・マーキー著、森光威文、大越一樹訳)からの抜粋です。

フレッド・ライクヘルド
ベイン・アンド・カンパニーのロイヤルティ・プラクティスの発起人。顧客ロイヤルティ改善を通した企業の業績向上を20年以上にわたって研究。米『コンサルティングマガジン』誌で世界で最も影響力のあるコンサルタント25名に選ばれた。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。


ロブ・マーキー
ベイン・アンド・カンパニー ニューヨークオフィスのパートナー。同社の顧客戦略・マーケティングプラクティスを統括。顧客ロイヤルティ先進企業が参加するNPSロイヤルティ・フォーラムの創設者。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。