── 一般に建築の世界で、免震技術の開発というのはどの程度進んでいたのでしょうか?

山下 そうですね。遡ればずいぶん歴史がありますし、阪神・淡路大震災当時でも、ビルなどでは積層ゴムを使った免震技術がすでに実用化されていました。ただ、ビル向けの技術をそのまま戸建住宅に転用できるかというと、そうはいかないのです。免震の場合、建物をヨコ方向にやわらかく動かす必要があるのですが、そこでは建物の“重さ”が重要になります。一般に戸建住宅だと重量が足りず、積層ゴムによる免震が機能しにくいのです。

ではどうするか、と検討したのが「すべり」と「転がり」による免震でした。「すべり」は、例えばテフロンとステンレス材の低摩擦を利用する方法。一方、「転がり」は文字どおり球体の転がりを使う仕組みです。最終的に私たちは、性能やコストのバランスを考え、「転がり」による免震を採用しました。

──球体ということは、つまりボールのようなものを使うのでしょうか。
ダイワハウスの免震システムを支える「単球式転がり支承」。57mmの鋼鉄製のボールが鋼板皿の上で転がり、地震の揺れを受け流す。

山下 当社の免震技術は直径60mmほどの鋼鉄製の球が、基礎と建物の間で転がることにより、地震の揺れを受け流す構造となっています。そのほか、強風などによる揺れを防ぐ装置、建物の動きが大きくなりすぎないようブレーキをかける装置で、ダイワハウスの免震システムは成り立っています。

1995年の阪神・淡路大震災後、さまざまな方向性を模索して、本格的に開発を始めたのが1998年。商品としての発売は2001年で、プレハブ住宅メーカーとしては業界初の免震システムでした。さらに2003年には当社の完全な独自技術として、改良モデルも発売しています。

──その後、制震技術の開発も進められたわけですね。
中央部に粘弾性体を挟んだプレートを備えた制震パネル。壁の一部として設置される。

山下 お客様ごとにコストや性能など幅広いニーズがあるなかで、地震対策の“もう一つの選択肢”を提供できないかと考え、揺れを制御する制震技術の開発をスタートさせました。ポイントとなるのは、「粘弾性体」と呼ばれる素材。粘土のようにぐにゃりと衝撃を吸収する性質と、ゴムのように弾く性質を兼ね備えた高分子材料です。これをプレートで挟み込み、そのプレートを中央部に組み込んだ制震パネルを壁として設置することで、地震のエネルギーを熱として放出できるようになるのです。

素材の選定にあたっては、素材メーカーが持つ10種類ほどの材料を取り付け、実際に制震パネルを製作し、それを揺らしてみて、一つ一つデータを取りました。さらに、住宅の縮小モデルもつくり、振動台に乗せるという実験も行いました。言うまでもありませんが、住まいの安全性に関わる研究では、机上の計算で良い数値が出たからといって、すぐに商品化というわけにはいきません。実際にものを造って、地道に検証を重ねていくことが不可欠です。このあたりが、研究開発の大変なところでもあり、醍醐味でもありますね。