戦略立案に必要な「もうひとつの基本要素」

最近、デジタルカメラを買い換えました。デジタル一眼レフや、流行りのミラーレス一眼ではなく、コンパクトデジカメ(以下、コンデジ)と呼ばれるジャンルのものです。

日本企業の衰退が著しい昨今、デジタルカメラ市場は、日本企業の寡占状態が続いています。一昨年に発表された、経済産業省による「産業構造ビジョン2010」< http://www.japic.org/pdf_sys%20/20100624_04.pdf >の中でも、「世界市場の規模が拡大しても、日本企業がシェアを維持している例」として、自動車市場と並んでデジタルカメラ市場が取り上げられています。内部構造に、相互依存性が非常に強い「擦り合わせ(*)」領域を有し、そのブラックボックス化に成功していることがシェア維持の主要因、と分析されています。

* 「擦り合わせ」は、東京大学大学院経済研究科で、ものづくり研究で高名な藤本隆宏教授が提唱するビジネス・アーキテクチャに関する概念。自動車のように特別に最適設計された部品を微妙に相互調整しないとトータルシステムとしての機能が発揮されない製品が「擦り合わせ型(インテグラル)」製品の代表例。自動車の場合、「例えばエンジンの重心がボディのどの辺に来るか、エンジンの性能特性とボディの重量や剛性がどのようにつりあっているかなどの、部品設計の相互関係が微妙に違っただけで、その製品のトータル・パフォーマンスはガラッと変わってしまう」(「日本のもの造り哲学」P.18、日本経済新聞社2004年)。これと対比されるビジネス・アーキテクチャが「組み合わせ型(モジュラー)」であり、PCがその代表例。

強い企業は、なぜ強いのか? 背景にある「競争のルール(事業特性)」は何なのか? このことを徹底的に掘り下げて考えることは、戦略立案における不可欠な要素です。これを正しく把握しなければ、勝者が勝ち続けることも、弱者が大逆転を果たすことも難しいでしょう。しかしながら、戦略立案の際に意識しなければならないもうひとつの基本要素も忘れてはなりません。

そもそも、デジタルカメラ市場はグローバルでどの程度の市場規模があるのでしょう? カメラ映像機器工業会によれば、2011年の世界出荷台数は約1億1462万台、金額ベースで1兆1655億円市場 < http://www.cipa.jp/data/pdf/d_2011.pdf >。グローバル市場を総取りできたとしても売上はせいぜい1兆円に過ぎないのです。1台あたりの平均単価は1万円そこそこ。あなたが、韓国・台湾・中国の電機メーカーの経営者だとして、多大な研究開発投資やマーケティング投資を行ってまで、この市場に本格参入したいと感じるでしょうか?

携帯電話端末市場は、世界販売台数ベースで10億台を優に超え20億台に迫る勢いですから、桁が1つ違います。薄型テレビ市場は、世界出荷台数ベースで2億台を超え、しかも1台あたりの平均価格はデジタルカメラの比ではありませんから、これまた二桁兆円市場であることは容易に想像がつきます。後発の韓国・台湾・中国の電機メーカーにとってのデジタルカメラ市場は、日本企業に市場退出を迫るほどの魅力はない、ということなのです。