社長自らが矢面に立ち、社員の説得に当たった。社員が少ないため、それぞれの顔も事情も知っている。真剣に向き合って自社の未来を考えたときにどういう選択をしなければいけないのかを一人ひとりに語った。

辞めてもらう社員は年齢も職種も様々であったが15名削減した。残った社員に対しても時間をさいて状況は必ずよくなると何度も説得し、社運をかけてある商品を前面に押し出した。

その会社は今ではすっかり立ち直り業績も好調である。当時の社長は今、親会社である一部上場企業の社長に就任している。今思うとそのときの社長の覚悟が社員に伝わったことが、苦境を乗り切る力となったと感じている。

日本は欧米のようにドラスティックな解雇手段は取れない。だが、実質的に人員削減というのは希望退職という名の退職勧奨である。ほぼ100%会社の事情であることは間違いないのだ。だからこそ退職を受け入れてくれた人に感謝し、次のステップに進むための配慮もしなければならない。

 

リストラの対象になったらどうするか

かつて個人のキャリアとは、会社が決めるものであった。つまり「キャリア=会社の人事」だったのである。自分の意思より、会社から求められることに応えることが仕事だった。

大学を卒業して65歳の定年まで、人は43年間働く。その間、姿、形を変えずに存続する企業などありえない。会社の事業にも寿命はある。変化の激しい現在のサイクルでは5~8年で市場が成熟して終わるケースも少なくない。場合によっては倒産も覚悟しなければならない。人員削減は社員にとっては突然降って湧いた出来事のように思えるかもしれないが、どんなに業績好調な会社でも経済状況の変化によっては、いつでもありうることなのだ。今は、働かなければならない43年間に4~5回転職してもおかしくない時代だ。キャリアは個人が築く時代に変わってきている。

そんなときに自分のキャリアをどう考えていけばいいのか。

一つ言えることは、人員削減の対象となったからといって、それはその1社での特定の局面での判断でしかないということ。それを絶対視しないことだ。所属していた会社の置かれた環境の中で会社が取った手段、それは客観的な自分の市場価値ではない。現在の会社で評価が低くとも場所を変えれば大活躍する人も大勢いる。会社からの評価ではなく自分自身がこれまでの仕事をどう捉えるかが重要なのだ。

そして、当たり前の日常が当たり前に続くとは思わないこと。自分の身は自分で守り、自分の選択において起きたことは自分で引き受ける。そう考えることが一個人として有効なキャリアパスを築く礎となるのである。

(構成=登上幹千)