日本画絵具の老舗「上羽絵惣」の自然派マニキュア。

1751年創業(!)の日本最古の絵具商「上羽絵惣」の意外なヒット商品は「胡粉(ごふん)ネイル」というマニキュアだ。抗菌作用もあるホタテ貝殻の粉末から作るマニキュアは口に入っても安全な顔料で刺激臭がなく、消毒用アルコールで簡単に落とせて爪にやさしいと、普通のマニキュアに不満を持っていた消費者の絶大な支持を獲得している。10年に、真珠のような輝きを持つ透明色の「白光(びゃっこう)」という商品からスタート。1年間で6000本を売る予定が、発売後3カ月で完売し、20色が加わった現在では、当初の目標の20倍の売り上げを誇る。

日本画を嗜む人口が減り、やはり売り上げ減少に苦しめられていた同社も、愛知ドビー同様、起死回生の一手を模索していた。「色」が商品の核である点は共通だが、それにしても絵具商がなぜマニキュアだったのか。

取締役で胡粉ネイルの生みの親の石田結実氏は7年前に、9代目社長の父が病に倒れた際、実家に戻った。しかし、もともと「お嬢さん」として育ったため、右も左もわからない状況で、京都商工会議所青年部といった地域の組織に足しげく通い、さらに異業種の人々にできる限り会ってアドバイスを乞い、経営の見直しと自社の強み再発見のヒントを必死に探したという。日本画を習い、カラーコーディネーターの資格もとって、自社製品の特徴を見つめ直す作業をコツコツと続けた。

「そうしたなか、『絵具は絵画という芸術を支える大切な道具だけど、女性にも化粧という芸術があるよね』と、信頼する方から言われました。なるほど、それなら女性全員が芸術家になれる商品を作ろうと思いついたんです」

そこで目をつけたのが女性に人気の「爪を彩る化粧」、つまりマニキュアだった。さらにラジオで女子高生が「ホタテ塗料を爪に塗るとキレイ」と話していたのを偶然聴いて「ホタテ塗料? うちの胡粉もそうだ!」と閃いた。

「何しろネイルアートと呼ばれるくらいですからね。芸術にとても近いアイテムです。私自身もマニキュアの刺激臭が苦手で、爪にやさしいマニキュアが欲しかったですし、京都土産に丁度いい商品であるのもポイントでした」

ブランディングについては老舗の魅力を発揮した「和」のイメージで作り上げた。「白光」「水桃(みずもも)」「雲母(うんも)」といった風情あるネーミングは、古いにしえより使われている絵具の名前から採用。白狐印の渋いブランドマークも同社が昔から使っているもの。日本のよさを再確認する「和ブーム」の時流も味方して見事、会社の立て直しに成功した。

「胡粉ネイルで皆さんに芸術家になってもらったら、当社本来の生業も知っていただいて、1人でも多くの方が日本画に興味を持ってくださったらいいなと思っています。日本画という芸術が廃れないように、胡粉ネイルの成功を本業の存続につなげたいですね」