新春、東京・銀座の数寄屋橋交差点に、巨大な壁画が現れた。

ソニービルの壁面を金銀紅白で鮮やかに飾るそれは、高さ37.5メートル、幅6メートル。圧倒的な存在感を放つこの壁画は、新春の銀座の街を彩るにふさわしい、煌びやかなものに見える。実際に、この壁画を目の当たりにすると、そのあまりの大きさに圧倒されてしまう。あまり近くで見ようとしても、その全景を確認することは難しい。

ビルの前を通る晴海通りを反対側に渡り、更に外堀通りを有楽町側に渡って鑑賞する。ちょうど数寄屋橋交差点の交番前辺りが、一番の鑑賞スポットかもしれない。その際立った存在感が、道行く人々の目を引く。

「日・月・富士」と銘打たれたこの壁画には、金銀5つの円が配されており、この5つの円は、太陽と月を表しているという。さらに、この円の中には、松の苗木、水引、富士山なども描かれている。

この壁画の作者は、ピーター・A・マックミラン氏。

マックミラン氏は、アイルランド出身。アイルランド、アメリカ、イギリスで学び、現在は杏林大学の客員教授を務め、東京大学の非常勤講師としても教壇に立っている。大学教員としての顔のほか、詩人、版画作家、翻訳家としての顔も持つ。版画作家としては、「西斎(せいさい)」の雅号で活躍する、親日家だ。日本在住は20年以上になる。

マックミラン氏は、この壁画に込められた思いについてこう語っている。

「新しい年を迎えるに当たって、東日本大震災の復興途上にあるこの国に元気になってほしいという願いも込め、アートウォールのデザインには、日本文化を象徴する太陽と月と富士山をほどこしました。日本は太陽をシンボルとする国として知られていますが、縄文の昔から、月も日本の文化においては重要な位置を占めています。太陽と月と富士山がある限り、私にとって日本の未来は明るく輝いて見えるのです」

マックミラン氏はさらに続ける。

「5つの玉はおめでたい『くす玉』でもあります。2013年の到来とともに、艶やかなくす玉の開くように日本に福が運ばれることを願いました。また、5つの円は『五輪』も意味します。2020年の夏季オリンピック・パラリンピックの東京招致成功への願いも込めました」

壁画上部の太陽の中に描かれた松の苗木は、東日本大震災の復興のシンボルとなった、陸前高田の「奇跡の一本松」の種から育てられた苗木の写真をもとにしているという。

「この松の苗木には、新しい年への祈り、そして震災によって傷ついたこの国が、健やかに育つ松の木のように再び元気に立ち上がるようにという願いが込められています」

この壁画の展示と併せて、銀座ソニービルの1Fでは、現代版浮世絵としてパリ・ニューヨークでも展示された、マックミラン氏制作の版画シリーズ「新・富嶽三十六景」が展示されている。この「新・富嶽三十六景」は、葛飾北斎の浮世絵版画「富嶽三十六景」に想を得て制作された版画シリーズで、その着想は非常にユーモアにあふれる。

この展示会の会期は1月27日(日)までとなっている。展示期間中は、版画の販売も実施しており、その収益の一部は、「RESTART・JAPAN・ファンド」を通して、東日本大震災の復興支援に役立てられる。

「RESTART・JAPAN・ファンド」は、Sony Corporation と Save the Children Japan の協働で設立されており、東日本大震災の復興支援、特に次世代を担う子どもたちへの支援を目的としているファンドだ。

展示会は、誰でも無料で鑑賞することができ、20点弱の作品が展示されている。

「カップヌードル富士」と題されたこの作品。見た目については何の説明もいらない、まさに見たままの作品なのだが、もちろん、この作品にもマックミラン氏の思いが込められている。その込められた思いについては、是非、会場で確かめてみて欲しい。

富士山を眺めに、銀座へ足を運んでみるのもいいかもしれない。

(文=田中健一)