「自分らしさ」と「他人がみるあなた」を結ぶ

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今回とりあげる「セルフブランディング本」一覧

翌2004年、自分をブランドとみなす考えを体系的に示した書籍が翻訳刊行されます。作家のデビッド・マクナリーさんとコンサルタントのカ-ル・D.スピークさんによる『人生に成功する「自分ブランド」――強いイメ-ジで人を引きつけ、人を動かす』です。同書では、2009年までのブランド論の構成要素が全て出揃っており、また最も体系的に解説がなされています。そこで 少し多めに紙幅をとって、同書の主張を紐解いてみましょう。

同書は「現実と認識、つまり『真のあなた』と他の人々が感じ接しているあなたの像の間にギャップがあるということ」(14p)の問題化から始められています。つまり、自分にはそれなりに能力があるはずなのに、認められないのはなぜなのか――。そのような「本来の自分や自分の信じることが十分認められていない」状況を打開するために、ブランドという概念への着目が促されています(14p)。

同書では、「あなたというブランドとは、他者があなたと関わりをもったときにいだく体験のすべてを表わす認識や感情が、その人の中に維持されたもの」(17-18p)と定義されています。しかし、これだと少し分かりづらいので、他の言及を参照してみると、概してブランドという言葉は、他者がもつ自らへのイメージの総体だと考えられていることが理解できます。

「あなたのブランドイメージとは、あなた以外の人のマインドの中につくられた認識なのです」(18p)
「あなたがどう考えるかなどはほぼどうでもよいのです。他の人がどう思うかが重要なのです」(28p)

では、他者によく思われるように、自分自身のイメージを変えていくことが同書の主張なのかというと、そうではありません。以下にあるように、自分自身の価値観、先の引用箇所の言葉を用いて言えば「真のあなた」「本来の自分」をまず大事にすることが主張されるのです。

「自分らしさ」を大事にせよとされる一方で、「あなたがどう考えるかなどはほぼどうでもよい」ともされるということ。これは一見すると矛盾のように見えるのですが、同書ではこの相反するように見える二つのメッセージを結びつけることが目論まれます。そしてこの結びつけを重要視することこそが、マクナリーさんらの考える「自分ブランド」の中核にある志向であり、また2009年までのブランド論の基本的主張だと考えられるのです。以下、それを見ていきましょう。

同書では、強いブランドは「際立っている」「適切である」「一貫性がある」(32p)という三つの要素が一つになることで作り上げられるとされます。一つめの要素、「際立っている」とは、「自分が何を信じるかを決め、その信念にもとづいて行動すると決めるとき、あなたというブランドが強化され始めます。そしてその瞬間、あなたは他から自分を切り離すことになります」(32p)という言葉で説明されます。「あなたが真実だと信じること」(33p)を明確にすることが自分を他人と異なる存在にする、つまり自分ブランドを作り上げる第一歩になるというのです。

この自己明確化のための作業として同書では以下のような「道しるべ」が示されています。
「人生の目的『あなたの人生とは何なのか?』」(80p)
「ビジョン『私は何を創造したいのか?』」(83p)
「価値観『私にとっての真実は何なのか?』」(87p)

二つめの要素「適切である」とは、「自分の世界から抜け出して相手の世界に入り込」むこと、「相手の興味やニーズが何かを決定すること」を考えることだとされます。「相手は何を望んでいるのだろうか。何を必要としているのだろうか。何に価値を置くのか。何を期待しているのか」といった、相手の「興味やニーズを自分のもつ強みや能力と結びつけ」ること、これが二番目の要素です(35-36p)。

これに関しては、どのような関係性において自らのブランドが試されるのかという「あなたの能力が大切となる分野を見極める」、どのように他者との違いを表わすことができるのかという「あなたの基準と価値観を吟味する」、どのように行動すれば他の人々に大きなインパクトを与えることができるのかという「あなたのスタイルを定義する」、の3ステップの作業が示されています(100-104p)。こうして、「自分の強みを人々の期待に合わせる」(108p)ことが促されています。

三つめの要素「一貫性がある」とは、自分自身の信念と、それを相手のニーズに結びつける方向性を一貫させるということです。「すべての断片が一つにつながり、他に見せているあなたという写真は焦点が合い、ぼやけたり不完全だったりしません」(45p)という、時と場所、相手によって自分の態度が変わらないことが求められるのです。

これに関しては「あなたが他者のためにこうあろうと決めていることを言葉で表現」(117p)したものとしての「ブランド・プロミス」という言葉を中核とした、「ブランドの内部一致」(116p)が図られます。状況や相手によって変わることのない一貫性を自らに打ち立てることが求められるのです。ここでは、簡潔な一文で表現できる、際立った、他者に提供できるものを反映するような「ブランド・プロミス」を書くといった作業が課されています(122-123p)。

整理します。まず、自分自身にとって大切なこと、やりたいことを明確化する。次いで、それらがどのような経路をたどれば他人に受け入れられるのかを考える。そして、自らが提供するサービスの見せ方、自分がどう見られたいかという一貫したポリシーを定める。他人の評価は重要だけれども、それに自分を合わせるのではなく、自分自身の価値観をまずしっかりもって、それにもとづいてよりよく受け入れられる方法を考えていくこと。マクナリーさんらはこのようにして、「自分らしさ」を損なうことなく、他人に受け入れてもらうための方法を体系的に説明していました。