中身のない若手部下を戦力化する

【TECHNIQUE】世代の違いを認識し文章を書かせよ

動画ありBGMありの演出に期待が高まったのに中身が薄っぺら……。若手部下のプレゼンに肩透かしを食らわされる上司も多いのではないでしょうか。

パソコンやインターネットが玩具代わりで、小学校から情報教育を受けてきた20代の情報スキルは上司から見ると格段に高い。彼らのプレゼンの演出はスティーブ・ジョブズ並みに見事です。しかし肝心の中身が乏しいことも多い。私の授業でも、見事なプレゼンをする若い大学院生にA4用紙2枚に研究内容を書かせると、まるで書けないことがあります。

全員とは言いませんが、論理思考など、中身をつくる訓練ができていないのに、それを入れる器の技術に長けているのは、この世代の特性と言えるかもしれません。

中身のないプレゼンを目にすると「おまえ、○△大学出たんだろう?」と嫌みの1つも言いたくなるかもしれません。しかし大学に関しても40代が思い浮かべる大学と今の大学は異なります。

現在の大学入試ではAO(アドミッションズ・オフィス)入試や推薦入試が広まりました。結果、一般入試を経て入ってくる学生が減少し、1、2割という学校も珍しくありません。また卒論を課す大学も減っている。学生時代に論理が問われるまともな文章を書いていないのですから、プレゼンの内容をA4用紙にまとめられなくても仕方がありません。

「○○大学出身ならこれだけできて当たり前」という前提は崩壊しています。「○○大学出身」という看板はシグナルとして機能しない。同じ大学出身でも何を学んだかで、大きな個人差があるのです。

しかし、だからといって、彼らをあまり能力が伸びそうもない、重要でない業務に従事させてはいけません。

若い世代は小・中・高校と職場訪問や企業人による出前授業などのキャリア教育を受けています。このため自分の成長や専門性を伸ばすこと、プロフェッショナルな領域を伸ばすことへの意識が強い。ですから、能力が低いからといって、彼らが重要でないと認識する業務に従事させると、やる気を失うことがあるのです。

これまで何を学んできたか、これから何をやりたいかを意識してコミュニケーションを取る。そして、仕事の意義を説明したうえで、技術を駆使したプレゼンを禁止し、ひたすら書く練習をさせて考える力を伸ばす。それが論理思考ができない若手を育てる道になるのです。

東京大学 大学総合教育研究センター准教授 中原 淳
1975年生まれ。東京大学教育学部卒業。大阪大学博士。企業・組織における学習・成長・コミュニケーションについて研究。共著に『企業内人材育成入門』、近著に『職場学習論』など。
(構成=斎藤栄一郎 撮影=石橋素幸)
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