角が立たないように上司にモノを申す

【TECHNIQUE】移動中の電車や車の中で
東京大学 
大学総合教育研究センター准教授 
中原 淳氏

そもそも「モノを申す」ことは憎まれ役を買って出ること。従来のオペレーションを脅かす行為にほかなりません。新しいことをなすときは、必ず葛藤や矛盾を伴います。ある程度憎まれることは織り込み済みで挑むべきなのです。

もっとも物事には上手なやり方があります。どうせ波風が立つのなら、たとえ生意気だと思われても、最終的に上司に納得してもらえて、その結果、うまく仕事が進むようになれば目的は果たせます。

ここでポイントになるのが、上司をうまく動かす術を持つことです。上司が何を求めているのか、上司にとって何がメリットになるのかを見極めるのです。

ハナから問答無用の上司は別として上司にも聞く耳はある。ところが部下は提案の選択肢がA、B、CとあってA案を通したいときに、上司にAだけを見せて通そうとする。B案やC案を見せなければ、話が早いと思い込んでの作戦でしょうが、これは誤りではないでしょうか。

実は上司としては判断材料が欲しいのです。余計なものを隠せば隠すほどジャッジはしにくくなります。上司とて、その案を上層部に説明するわけですから、最終的にA案にたどりつくような材料が欲しいのです。となれば、部下は何を用意すべきか見えてくるでしょう。

不平不満をぶつけて一方的に上司を悪者にしてしまうのも建設的ではありません。仕事と人格を分離して、ことをなしたいものです。「一緒にやりましょう」とか「協力させてください」というスタンスを見せることも大切です。

内容もさることながら、モノ申すタイミングや状況も工夫できます。同じことを訴えるにしても、上司がイライラしているときには、いい結果は望めません。また話すときの立ち位置も権力関係から逃れられるポイントになります。

上司との関係づくりがうまい人が、モノ申すきっかけにしているのが、移動中の電車や車の中です。電車や車では、横に並んで座るので威圧感がありません。

また、移動中は時間も限られるので延々と叱責されないし、他の客の目もあり、上司もあまり怒れません。そこで、モノを申すさぐりを入れるのです。いけると思うのであれば、自社に帰って本格的に案をまとめればいい。

電車の移動時間などの細切れ時間を使えば、人間関係の構築や仕事の振り返りなどを効果的に行うことができるのです。

忘れてはいけないのが、モノ申すことは目的でなく、手段だということ。上司にモノ申してまで変えたいことは何か。それを明確にしておくことが肝要です。