ビジネスの世界で共通の「ロジック」と「EQ」

40名の受講生を前に、大前氏が英語だけで“白熱授業”を展開した。

ここでニュアンスが物をいう。別の角度からいえば、「EQ(心の知能指数)」だと大前氏が説明する。

「課長と従業員Aさんの関係がうまくいっていない。自分が部長ならどうすべきか。課長夫妻とAさん夫妻をコンサートや夕食に誘い出してみるのもいい。そういう日常とは違うモードで話をさせると、思ったよりいいやつだったとお互いを見直すかもしれない。このような解決策は、ロジカル・シンキングでは出てきません」

それは組織を動かすときも同じだと大前氏。

「人間の組織というのはロジカルに正しいことをやれと指示しても、必ずしもみんな意欲を出してくれるわけではない。完全にロジカルとはいえないけれど、120%コミットしてもらえそうなことを指示したほうが、いい結果が出る。EQの高いコミュニケーションができないと、マネジャー失格です」

ならば、最初からEQを追求した英語を学んだほうが近道にも思えるが……。

「それは違います。ロジカル・シンキングを飛ばしてEQばかりではダメ。それは日本の管理職のやり方。『おい、ちょっと一緒に飲もうよ』と寝技に持ち込むでしょう。車座になって、みんなで語り合えば絶対に何でも解決するなどという発想は甘いのです」

確かに日本の上司のやり方は、根拠なきニュアンスのコミュニケーションが多い。

「EQはロジックで導いた目的地にスムーズに、迅速にたどりつくための手段なのです。EQを先に学んでしまうと、ロジックを学ぼうとしなくなります。だからロジックを先に学ぶ必要がある」

大前氏は英語の流暢さについては、あまりガミガミいわない。むしろビジネスの世界では、ある程度の英語力は必要だが、ビジネスを円滑に、効果的に進めていく能力のごく一部に過ぎないと釘を刺す。

例えば、あなたが営業マンなら顧客からのやや無理な注文に対して、いきなり「No」とはいわないだろう。どういうふうに断れば角が立たないのか、あるいは、断る代わりに、もっと建設的な提案をしてみよう、などと考えるのがビジネスだろう。「No」をどれほど流暢に発音しても、ビジネスでは失格なのだ。

つまり我々が学ぶべきは、英語という言語ではなく、英語を使ったビジネスにほかならない。大前氏の話を聞いていると、語学力以上に、対人能力やコミュニケーション術の重要性に気付かされる。上級を目前にして足踏みしているのであれば、本来ビジネスに欠かせない姿勢を忘れていないか再点検してみてはどうだろうか。

※すべて雑誌掲載当時

(斎藤栄一郎=構成 川本聖哉=撮影)