たとえば、工場などの現場から研究所へ移りたい人がいるとします。研究にはそれなりのリソース(資源)を使いますから、研究員の数にもおのずから一定のキャパシティが定められています。その枠内に入るためにはまず、その分野において成果や才能を認められなければなりません。これが第一の条件です。

一般的にいえば、その人の専門性が受け入れる側(研究所)の課題とマッチしていれば、認められる可能性は高まるでしょう。

ただし、最初から研究員として「枠内」にいた人でも、内部の競争に敗れてその道をあきらめる人もいるのです。中へ入ってからの競争が熾烈であることを忘れてはいけないと思います。

私がよく知っているのは企業ではなく大学や国の研究機関での例ですが、いまは博士号を取ったあとで、大学の助教・准教授などのポストに就くまでの任期つき研究員(ポスドク)を務める人がたくさんいます。ポスドクの人たちは正規のポストを得るために、たいへんシビアな競争を強いられているのです。

成果があがらず、ポストを得られないまま任期3年のポスドクを3回も続けて繰り返し、30代後半に達してしまう人もまれではありません。ポスト不足は深刻な問題なのです。

研究の花形「博士」にはなったけど……ポストのない博士(ポスドク)が急増中
図を拡大
研究の花形「博士」にはなったけど……ポストのない博士(ポスドク)が急増中

もちろん「適性はあるのにポストに恵まれない」といわざるをえない気の毒なケースがあるのも事実です。しかし、彼らに対して「夢を捨てないでよく頑張っている」などと甘い言葉をかけるのは、適切ではありません。

忘れてはいけないのは、どのような研究分野であれ、趣味ではなく「職業として、仕事として取り組むものだ」ということです。私に限らず、責任ある立場の人は同じような考え方をしていると思います。

「君は将来のことをどう考えているの?」

30代後半になってもポストが遠い人には、このように声をかけることも必要です。研究室にこもるばかりが人生ではないのですから。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=インタビュー・構成 永井 浩=撮影)