一方、部下から上司に向けた心配りで最も重要なのは情報の伝達だろう。部下の立場では、上司に素早く情報を上げることこそが最良の気遣いといえる。

「上司に対して、重要な情報は早く伝える」ことを心がけている1500万円社員が35.3%(「あてはまる」の回答)いるのに対し、600万円社員は23.3%(同)にすぎなかった(図14)。

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図14/報告はスピーディーに

情報の伝達がすさまじく速い銀行員や商社マンがいる。例えば取引先の新規事業の政策変更が夕方の会議で決まったとすると、就業時間が終わっていても、その日のうちに彼らの上司に当たる次長・部長クラスにまで情報が上がっている。場合によっては役員も把握していて対応策を指示している。情報がカネになるということを身に染みて知っているからこそ伝達が速いのである。

会議で決まったことを逐一伝えればいいということではなくて、即座に伝えるべき情報と、明日補足して伝えるべき情報と、自分で処理すればいい情報を瞬時に腑分け判断する能力が必要ということだ。この判断ができないと些細な情報でもナマの形で上げてしまい、上司を混乱させることになる。

実は、重要な情報を素早く上げることはむずかしいことではない。むずかしいのは自分のミスなどのネガティブ情報を上司に報告する場合である。誰でもネガティブ情報を上司に伝えるのは気が重い。もう少し時間が経てば解決できるかもしれないし、新たな展開が期待できるかもしれない――そんなふうに都合よく解釈して先延ばししたくなるのが心情だ。

しかしネガティブ情報は顧客にとってマイナス事態が進行していることを示す最重要情報なので、発覚した時点で上司に報告して会社として対応しなければとり返しがつかなくなることもある。自分自身、上司、そして会社の危機管理能力が問われる場面だ。

1500万円社員の23.3%(「あてはまる」の回答)は「言いにくい報告もすぐにする」と答えている(図15)。600万円社員では13.3%(同)に下がる。

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図15/言いにくいことは早めに

ただ実際にネガティブ情報を伝えるときには、上司に心構えの時間を与える気配りも必要だ。取引先から青い顔で帰社していきなり「部長大変です!」と叫んだのでは部長の血圧は上がってしまうだろう。事前に電話したり、会ったらまず何度か誠実に謝る。その間に心の準備をしてもらい、例えば「3000万円の仕事を失いそうです」などと報告すれば、感情任せに怒鳴られることはないだろう。さらに、部長に「で、どうするんだ?」と聞かれたときの答えを用意しておく。

一時期「飲みニケーション」という言葉が流行した。昔は上司が酒の席に部下を誘うことは当たり前の光景で、このような言葉が生まれる余地もなかった。しかし今は違う。部下は上司の誘いを「うっとうしい」と感じることもある。ところが「上司に飲みに誘われたら必ず同行する」ことを気配りと考える部下も、実は少なくない。一見ごますりに映るこの行動にも消極派と積極派の2タイプがあって、消極派の行動には「上司に誘われたから仕方なく」とか「覚えがめでたいように」という気持ちが働いており、積極派には「ビジネスに役立てる目的」という思惑がある。例えば積極派は酒の席では当たり障りのない話をしておき、帰りのタクシーの中で自分が通したい案件の根回しを行うというように。こちらは場をうまく利用した気配りといえそうだ。