さぁ、いよいよ式が始まる。鈴木修はマイクの前に立つ。

整備工場を視察/気温は30度近く、湿度70%を超える蒸し暑い気候。背中には汗が滲む。

「ブンロートさんのファミリーとはオートバイのディーラーをしていただき、もう45年のお付き合い」「3月から販売を始めた四輪は月平均で40台を販売していただき、バックオーダーを700台も抱える好成績をあげていらっしゃる」

「車の問題や情報は、直接メーカーにお知らせを。どうかひとつ、これからもスズキの一翼を担っていただきたい……」

バンスズキ側からも挨拶があり、記念品をやり取りし、地元の民族舞踊だろうか太鼓演奏があって、駐車場のセレモニーはお開きとなる。

建屋面積が約1100平方メートルのショールームに入っていき、同社の女性スタッフ1人ひとりと握手を交わす。

記念植樹/ここでもスコップを片手に自らが汗をかく。ズボンのポケットには汗拭きのハンカチが。

ここまでならば、他の経営者とそう変わらないだろう。が、現場に入った瞬間から、鈴木修は人が変わっていく。

眼が笑わなくなるのだ。ジョークは消え、記者団のカメラの放列などへの意識も消えていく。現場に集中し、細部にまでとことん注意を払うのだ。こうなるともう、質問など投げかけられる雰囲気ではなくなってしまう。気持ちが入り込んでいて、眼は決して笑わない。

この笑わない眼が、世界中のスズキで働く5万5574人の社員、さらにはサプライヤーや販売会社などを合わせれば10万人以上を支えているように、筆者には思えてならない。