先日、私はあるメディアで中国最大の家電メーカー・ハイアールのタイ工場の奮闘ぶりを取り上げた。三洋電機のタイにおける製造基地だった同工場は、一度も黒字を計上したことはなかった。5年前に工場がハイアールに買収され、3年前に社長として30歳の青年が送り込まれた。その後、わずか3年で初の黒字を実現した。

同じような奇跡が日本にもあった。80歳近い老人が何も持たずに倒産後の日本航空に乗り込み、わずか2年でこの「傲慢さ、横柄さ、プライドの高さが鼻につき、お客様をないがしろにする」会社を見事再生させた。

再生の旗手である稲盛和夫氏が創業した京セラの歴史と彼の経営哲学を描いた『敬天愛人』(1997年刊)に、その後の歩みを加筆して新装版として発行されたのが、本書『ゼロからの挑戦』である。これを読んで、稲盛氏はやはり神話的な経営者だ、と改めて認識した。稲盛氏は本書で、航空運輸事業に何の経験も知識も持っていないが、日本航空の再建に携えていったものは経営哲学「フィロソフィ」と経営管理システム「アメーバ経営」だ、と語っている。

実は、今年9月、前述のハイアール中国本社で張瑞敏CEOを取材したが、CEOは稲盛氏の本を取り出し、稲盛氏と交流したことがあると教えてくれた。

ハイアール社内では「顧客重視」を強調するスローガンがいたるところに見られたが、まさに稲盛氏の考えと同じである。高額の航空機材やその運航に必要な設備を多数所有する航空運輸事業は、巨大な「装置産業」と思われがちだが、稲盛氏は「究極的に」という条件をつけながら「サービス産業」だと位置づけ、顧客満足度を高めた。

会長のポストを引き受けたときの心境について、稲盛氏は次の3点を挙げている。(1)日本経済への影響、(2)社員たちの雇用を守ること、(3)国民、すなわち利用者への責任を考えることである。「もしJALが破たんしてしまえば、日本国内での大手航空会社は1社だけとなり、競争原理が働かなくなってしまう」。日中間を頻繁に行き来するだけに、乗客としてその思いに感激している。

最近、日本の多くのメディアが、落日のごとく急速に勢いを失った日本企業の問題点の分析、その再起の方法・道などを探る特集を組んでいる。しかし、その多くは、企業を「装置産業」ととらえている。市場のニーズや顧客の満足度を重視すべきと言っていても、実際は技術第一主義で、市場も顧客もその眼中にいれていない。企業もメディアも同じ病に蝕まれている。

本書は、そんな思い込みにとらわれがちな日本人に対する一種の清涼剤となるだろう。いま一度原点に立ち戻って、企業は何のための存在であるかを真剣に考えるべきだ。「メード・イン・ジャパン」「逆襲」といった美辞麗句に惑わされずに、虚心坦懐に学んでほしい。