コラボ先の温泉も客足アップで大満足

そのなかでも特筆すべきなのが、10年12月23日から11年1月10日まで行われた、信州渋温泉とのコラボイベントだ。辻本氏が言う。

プロデューサー 
辻本良三 

1973年、大阪生まれ。96年、カプコン入社。『モンスターハンターポータブル 2nd』よりプロデューサーを務める。モンハンシリーズは04年の第1作発売以来累計1800万本超を販売した。

「渋温泉は雰囲気がゲーム中の『ユクモ村』という温泉地によく似ていた。そこで温泉街そのものをモンハンの世界に模したんです。ゲームの世界観がリアルに味わえ、しかもプレーヤーが集まるのでゲームを通じて話題も合い、一緒にプレーできる。プレーヤーにとって楽園のような空間になると思ったんです」

しかし、当初は理解を得るのに苦労した。辻本氏らカプコンのスタッフが渋温泉の旅館組合に行って話をしたが、組合の役員には高齢の人が多く、ゲームそのものを知らない人が大半で、信用してもらえなかったのだ。そんななか、助け舟を出してくれたのが、組合の青年部にいた関宗陽氏だった。関氏は語る。

「実は私もモンハンのプレーヤーだったんです(笑)。最初、話を聞いたときはウソだと思いましたが、本当にやる気だとわかり、絶対やったほうがいいと、宿はもちろん、おみやげ屋さんや一般家庭まで説得してまわりました」(関氏)

発売前に東京・帝国ホテルで開いた発表会に渋温泉関係者を招き、ゲームについての理解を深めてもらった。そして実現へとこぎつけたのだ。

「そこからは渋温泉の人たちが本当に協力的になってくれて、ゲームをプレーする集会所の用意やゲームの世界観を再現するグッズ、食べ物のアイデアもいろいろ出していただきました」(辻本氏)

すると、宿泊、日帰りを含めて1万人以上が渋温泉を訪れた。カップルが対象の「狩ップルプラン」は2人で1泊7万5000円という高額にもかかわらず、予約開始から10分で完売したという。

モンハンの女性ファンお手製のキャラクターの帽子や、渋温泉の人たちが作った竹コップや赤暖簾も世界観の醸成に一役買った。

「私の感覚では、客足が通常の6割から7割はアップした印象です。なかでも、家族連れや女性だけのグループが多いのが意外でした。6割以上は女性だったんじゃないでしょうか。終了後の反響もすごくて、渋温泉のリピーターになってくれたお客さんが何組もいます。宿泊客の増加、おみやげなどの売り上げ、宣伝効果などを考えれば、渋温泉にとって、ものすごくプラスでしたね」(関氏)

2011年夏は大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンともコラボ、そして渋温泉とも再びコラボすることが決まった。

「このゲームでは、企業としてユーザーに話題を提供することに注力しました。ただ、イベントなどを連発して“盛り上げすぎる”ことには注意しています。テンションが上がりっぱなしだと、疲れて飽きられてしまうかもしれませんから」

多彩な仕掛けを用意しながらも、一過性のブームになることを避けるためにバランスも調整する。この絶妙さが、モンハン躍進の秘密かもしれない。