主婦に非日常を提供する「楽しさ」
●慶應義塾大学商学部教授 小野晃典

コストコは日米両国で成長しているが、その要因はそれぞれ異なると考えられる。

米国での成長の要因はローコストオペレーションだ。ローコストオペレーションはウォルマートが有名だが、安さを売りにするあまり、売っているモノやサービスは低品質と知覚されている。一方、コストコはウォルマートよりもう少し上質なモノを安く提供し、真空地帯をうまくカバーした。日本でのコストコの人気は、それに加えて「楽しさ」が要因になっている。

私自身もコストコのメンバーで、買い物経験があるが、競合の日系スーパーと比べて、桁外れに安かったり品質が良かったりする印象は受けない。そのかわり、独特の「楽しさ」がある。つまり、アメリカサイズの大きなパッケージが並ぶ目新しさや、他店では売っていない海外製品が見つかる面白さだ。

この2点は各々「お裾分けのバリューが高い」「これは主婦仲間で話題になる」という期待感を伴っての商品購入につながるだろう。「うちだけでは消費しきれない」といって珍しい製品を近所にお裾分けしたり、主婦同士が連れ立ってお店に出かけたりする行動が、会員数の増加につながっていると考えられるのである。

仲間とのコミュニケーションを伴う楽しいショッピング。コストコ会員はそこに年会費を支払う正当性を見出しているのではないだろうか。

コストコでは試食に長蛇の列ができる光景を見かける。一切れの商品のために並ぶ行為は、顧客がショッピングを楽しんでいるがゆえであろう。ディズニーランドのアトラクションに並ぶのと同じ感覚だ。普通のスーパーで試食品をもらうと、後でちゃんと買わなければいけないという「負債感」を抱かされるが、コストコにはそれがない。試食さえショッピングの楽しさを補強するエンターテインメントとして機能しているのである。

※すべて雑誌掲載当時

(小倉和徳=撮影)
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