社会的関係への感度を高めよ

個人的な趣味で、いろいろな人の「カチン体験(腹が立った経験)」というものを収集しているのだが、店舗などのスタッフの対応に関するものが、やはり圧倒的に多い。

【例1】タクシーの運転手がタメ口で「どこまで?」「そうなの?」などと言う。
【例2】レストランに昼に電話をしたら「今、忙しいので3時以降にかけ直してほしい」と電話を切られた。
【例3】有名なうなぎ屋で、「こちらはどこのうなぎを使っているのですか」と聞いたら、「言ったところで違いがわかるんですか?」と言われた。

きりがないのでやめるが、それ以外では上司や若手社員など、「職場の困った人々」に関するものもかなり多く、その両者によって占められる比率は相当高いと言ってよい。

ところで、なぜ「店」や「職場」においてカチンは頻出することになるのだろうか。

もちろん、人と人が接する機会が、そもそもその程度しかないという事情はある。しかしそれだけではない。そこには一定の「社会的関係」があり、それゆえに相手に対する「前もっての期待(これもスキーマである)」が生まれやすく、それがかえって多くの不快を招くという事態を生んでいるように思われるのである。

私たちは、店に入ると瞬間的に「客」という存在へと自意識を移行させる。と同時に、そこにいる人を「店員」とか「スタッフ」として認識する。つまり「金を払う側-払ってもらう側」という社会的関係を、瞬間的に、意識の中で成立させることになる。

この「社会的関係」の意識は、私たちに、多様な「前もっての期待」を抱かせる源となる。この国の常識では「お客様は神様」のはずであり、そこから必然的に導かれる一連の行動、つまり「敬語で話す」「笑顔で接客する」「丁寧な対応をする」などを、自然と相手に期待することになる。それだけに、そうでなかったときの落胆も大きく、「不快」が発生してしまうのだ。

こうしたメカニズムは、上司と部下との関係でも同じである。上司と部下という関係が成立した瞬間に、上司は部下に多くの「前もっての期待」を抱く。そのため行動に不満を抱いてしまいやすいのである。

こうやって見てくると、「カチン」を生み出すこと、すなわち「気配り」がないことは、どうやら「社会的関係」の意識と深くつながっていることがわかってくる。「社会的関係」への感度が低いと、当然ながら「前もっての期待(スキーマ)」がわからないので、相手が望むような行動ができないのだ。

このことは、逆に言えば、スキーマの理解力を高め、気配り力を高めるには、「社会的関係」への感度を高めることが非常に重要であることを意味する。感度が高ければ、相手のスキーマ(前もっての期待)も理解できる。そして、それが見えてくれば、相手の感情の推測・予測も、何をなすべきか(施策)の判断も、おのずとできるはずなのである。

先に述べたように、カチンの発生現場は、かなり限定的である。つまり、「店(サービス施設などを含む)」や「職場」に存在する「社会的関係」と、それに連鎖するスキーマをきちんと理解すれば、十分に「気配り上手」になれる可能性があるということだ。個人のスキーマは多様だが、「客」「上司」といった立場における人のスキーマは、さほど多様ではない。そこに集中すれば、かなりの上達効果が期待できるはずなのである。

こうした考えから、主に「店」「職場」に材をとった、簡単な「気配り力」を高めるための練習問題を示した。ぜひトライしてみていただきたい。