パナソニックは今期、7650億円の赤字となる見通しだ。前期と合わせて2年で1兆5000億円超が吹き飛んだ計算になる。一方、サムスン電子の前期純利益は約9000億円。今期の最高益更新も堅い。(※雑誌掲載当時)なぜ、この差がついたのか。両国企業の「人材力」を徹底検証する。

日本574点対韓国633点――。これは、2011年度の両国のTOEIC平均点だ。00年には500点台後半で互角だったが、日本が足踏みする一方で、韓国は順調に点数を上げた。英語力の差は、現在の日韓企業の「グローバル力」の差を象徴している。

サムスン社員のTOEIC平均点は、文系職種で約900点、技術系で約800点のレベルといわれる。基礎能力としての英語ができなければ出世など望めず、「できて当たり前」。これまでサムスン社員に100人以上に会ってきた外資系企業の社員はこう明かす。

「TOEICでは結構簡単に点数が取れるので、サムスンは数年前からOPIc(oral profi ciency interview by computer)などの会話力テストを重視するようになりました。外部の英語研修を社費で受けさせても、目標レベルに達しないと授業料を返還させるほど徹底しているそうです」

もちろん、英語だけではない。前述したように( http://president.jp/articles/-/8181 )、サムスンやLG電子は、現地に住む人々の生活習慣を理解し、文化にも精通している。それに合わせた商品を開発することで新興国でのシェアを拡大してきた。現在、両社の海外売上高比率は8割を超える。

日韓企業の「グローバル力」の差は、外国人社員の数にも表れている。全従業員に占める外国人の割合は、サムスンで54%、LG電子で61.2%(いずれも11年データ)。従業員の国籍もバラエティに富んでいる。LG電子の場合、韓国の次に多いのが中国で17.8%。以降、中南米13.2%、ヨーロッパ8.2%、東南アジア7.5%、インド5.7%と続く。

対する日本はどうか。パナソニックとソニーの広報に問い合わせたところ、両社とも「公表していません」という回答だった。

パナソニックは11年度より新卒採用の約8割を海外で現地採用すると発表しているが、「すべて外国人というわけではなく、海外留学した日本人も含まれます」(パナソニック広報部)。00年頃より海外現地での新卒採用を行ってきたソニーも、近年の現地採用の実績は2割程度で、ここにもやはり日本人留学生が含まれるという。

これを逆襲のシナリオの始まりととらえれば、一定の評価はできるのかもしれない。だが、両社の取り組みも、残念ながら韓国企業に比べればなお周回遅れと言わざるをえない。多摩大学教授の金氏は、厳しい意見だ。

「日本の家電メーカーや自動車メーカーの『グローバル化』はまだまだ欧米が中心。これから成長するのはアジア市場です。しかし、経営企画担当部署にアジア新興国戦略を描ける人材がいない。また、アジアの近現代史など、相手国について勉強していないから、交渉しても心が通い合いません」

なぜグローバル化でここまで差がついてしまったのか。早大大学院教授の小林氏は、両国ビジネスマンの「覚悟」の違いを挙げる。

「サムスンも現代自動車も、日本のようにサラリーマンとして海外赴任するという感覚ではなく、現地に骨を埋めるつもりでやっています。その意味では、『一所懸命』の日本人より、韓国人は祖国の地への執着心が小さいから海外でうまくいくのかもしれません」

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