国内トップ企業になってもわれわれはチャレンジャー

あいおい損保社長<br><strong>鈴木久仁</strong><br>1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒。大東京火災海上保険(現あいおい損保)入社。98年総合企画部長、2000年執行役員。04年専務を経て、10年4月社長に就任。
あいおい損保社長
鈴木久仁
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒。大東京火災海上保険(現あいおい損保)入社。98年総合企画部長、2000年執行役員。04年専務を経て、10年4月社長に就任。

――あいおい損保は4月に持ち株会社MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスの傘下となり、三井住友海上HD、ニッセイ同和損保と3社による経営統合をした。10月には、あいおいとニッセイ同和との合併が控えています。なぜ段階的な統合を進めるのですか。

経営統合の理由が「効率化」であれば、規模のメリットが出るので早急に3社が合併するのが望ましいでしょう。しかし今回の統合は主に事業基盤の安定化のために行うものです。また、従来のお客さまや代理店との関係もたいへん重要です。そのため、合併と持ち株会社方式とをバランスよく使って統合を進めていこうということです。

――最終的にはどのようなグループ形態にしていくのですか。

まずはお客さまや代理店にとって最適の形態であること。そのうえで効率性も追求したい。そうすると、事業別に再編するのがいいと思います。それにはメリットやデメリットの分析をきちんとしなければいけないし、保険業法との整合性も考えなければいけません。これは現時点の個人的な意見と考えてください。

――統合によって、3メガ損保のなかで最大規模になりました。

たしかに結果として売上高に当たる正味収入保険料は業界1位になりましたが、経営指標上は課題が山積しています。ですから、われわれの立場はチャレンジャーだと思っています。名実ともにトップになれるよう取り組んでいきます。業務品質や会社のありようについても、業界首位にふさわしいものにしていきます。

ただ、現場をエンカレッジするために「われわれは経営基盤が大きく強くなり、ナンバーワンになった。君たちが活躍できるステージは変わった」と社内では語りかけています。たとえば海外で事業をやるときに「日本のナンバーワン」なら相手の見る目も違ってくるということです。私は4月から全社員と一言ずつでもいいから語り合いたいと思い、できるだけ現場を歩くようにしています。18本部のうち地域別の12本部には必ず足を運ぶつもりですが、そうやって語りかけると、とくに若い社員は前向きになっているのがわかります。

――あいおいはトヨタ自動車、10月に合併するニッセイ同和は日本生命と親密です。両社との関係をどう考えますか。

私はトヨタ自動車、日本生命ともに成長分野だと考えています。ここは他社にはない、われわれだけの強みです。

たとえば国内の自動車販売は低迷していますが、ディーラー(自動車販売店)は販売収入が減った分、自動車保険などの周辺事業で収益を挙げています。修理などの仕事にもつながる自動車保険は戦略商品で、これを売るのはディーラーにとって大きなメリットです。そこで10年ほど前から、社内に20人ほどの「カイゼンチーム」を組織し、トヨタ系ディーラーに派遣して数カ月間、保険販売のサポートを行わせています。

その結果、多くのディーラーで「販売額が落ちても利益は上がる」という現象が起きています。現在、トヨタ系ディーラーが保険を販売してくれる比率は、いまのところ販売台数の10~40%ですから、まだまだ成長余地があります。今後、さらにこうした取り組みを強化していきたい。

損保にかぎらず、国内市場が頭打ちなので「これからは海外だ」という論調がみられます。海外市場だ、アジア市場だといいますが、簡単に開拓できません。一方、成熟市場といわれながら国内にも成長の分野はあります。それがトヨタ・日生マーケットなのです。

もちろん、努力なしにお客さまが来てくれるわけはありません。代理店のIT化を進めてお客さまへのアクセス手段を進化させるといった工夫が不可欠です。今後、市場の拡大が望めないなかで生き残りをかけた争奪戦を勝ち抜いていかなければならないと考えています。

(鈴木直人=撮影)