九州に進出した企業からは
アジアへの近接性に高い評価

──では2000年代の九州における3つ目、4つ目の変化は何でしょうか。

加峯 第3は、高付加価値の新産業分野における生産の拡大です。携帯電話やスマートフォンの画像入力部品であるCMOSイメージセンサーや携帯、スマホ、PCのほかハイブリッドカーなどにも用途があるリチウムイオン電池、人工腎臓やカテーテルなど医療機器、太陽光パネルなどが代表的な製品です。

そして第4の変化が、3.11を境にした企業動向です。リスク分散先として九州へ立地する、あるいは九州の既存拠点で増産体制を敷く企業が増えています。この動向は、特に地震災害が少ない北部九州で顕著になっています。

ただし、リスク分散だけが目的なら九州以外にも適地はあるはずです。九州への進出企業にアンケート(図2)を実施したところ、アジアとの近接性を評価する回答が半数を占めました。アジアへの物流網も充実しており、九州・山口経済圏の対アジア輸出比率は60%近くに達しています。また、九州は他地域に比べ人件費、物価が安いことや、土地を確保しやすいことも、評価のポイントです。

このほか、温暖な気候の宮崎県や沖縄県は、リフレッシュしやすいことがメリットで、クリエイティブな業務に適しているとされています。

2000年以降を振り返り、九州を飛行機の後輪から転換させた産業界の動きを4つお話ししました。各々において最も大きな役割を演じたのは、製造業です。

中国が「世界の工場」とまで呼ばれる半面、依然としてカントリーリスクは懸念され、生産拠点の構築では「チャイナ・プラス・ワン」の戦略が重要視されています。九州は、その「プラス・ワン」になり得ると思いますし、日本の空洞化を防ぐ「とりで」であるといってもいいと思います。

九州─アジア間でモノと
ヒトを運ぶ充実の交通網

──アジアとの近接性が評価される九州ですが、両者をつなぐ交通ネットワークについてお聞かせください。

加峯 九州はアジアの多くの都市と海上コンテナ航路をもつほか、貨客フェリーやRORO船の定期便も充実し、多様な輸送手段が整っています。

RORO船とは、コンテナを積んだトレーラーが直接船内に出入りして荷役ができる船です。クレーンを使って荷役を行うコンテナ船に比べ作業時間が短くなるなどの利点があります。

貨客フェリーとRORO船をあわせ、博多港、門司港、下関港からは上海、釜山ほか中国、韓国の港へ週に合計20便以上が運航されています。

今年度は、日産自動車九州とルノーサムスンが相互間の部品輸送にダブルナンバーのトラックを使う実証実験も行われます。日韓両国のナンバープレートを付けたトラックが、下関港─釜山港をフェリーで渡り、両国の公道を走ることができる仕組みです。

上海へのRORO船では、九州の港を出てアジアへ向かう荷物のうち、九州域内からのものは2割。他地域からが8割を占めます。九州は日本各地のビジネスにとって、文字どおりアジアのゲートウェイとなっています。

──では人の流れはどうでしょうか。

加峯 九州は人流の要衝でもあり、博多港で乗降する国際旅客数は2010年に90万人近くまで達し日本一です(11年は大震災の影響で約66万人)。クルーズ船の寄港回数も、博多港が2010年に61回と全国のトップを占め、12年には九州各地の港で合計179回もの寄港に上る見通しです(図3)。

中国からのクルーズ船で訪れる旅行客に対するアンケートの結果では、1人約4万円を九州で消費していました。一隻の乗客数は約2,000名なので、合計約8,000万円。寄港のたびに、大きな経済効果がもたらされています。

一方、福岡─釜山間はJR九州高速船「ビートル」が片道3時間足らずで結び、福岡空港とソウル、釜山の間をLCC(格安航空会社)も運航しています。こうした手軽な交通手段により、極めて日常的な人流が促されていることも特筆すべきでしょう。例えば、韓国の若い女性たちが福岡の美容室を利用しています。福岡の人々も韓国の免税店へ買い物に出かけています。大学の先生が韓国へ講義に通ったりもしていました。

──国内交通では、九州新幹線(博多─鹿児島中央、博多─長崎)の開通が話題となりました。

加峯 九州新幹線は、さらなる観光振興の追い風になるものと思われます。JR九州は、新幹線から乗り継ぐ二次交通にも力を入れており、例えば鹿児島中央~指宿の特急「指宿のたまて箱」は高い人気を博しています。

長崎や熊本や鹿児島の商業施設は、買い物客が福岡に吸い寄せられるストロー現象を警戒しましたが、マイナスの影響は非常に軽微なようです。

一方、九州の背骨となる新幹線の開通が、ビジネスパーソンのスピーディな移動にも貢献していることは、いうまでもありません。