「3行」にまとめた凄み

30年以上前の弊社には、書くことに関して極めて厳しい伝統が息づいていた。当時、ローミング・アンバサダー制度というものがあった。役員クラスが一定期間世界中を旅して回り、見聞してきたことを社長に報告するのだが、その際に提出する報告書の様式は、B5用紙に3行のみと決められていた。

私は入社したばかりだったが、役員たちが3行を書くために、鉛筆で書いては消し、書いては消しという作業を何度も繰り返す姿を目撃している。世界中を見て回って、わずか3行。その3行は凄みのある言葉で綴られていたに違いない。

最後に、「純朴」という言葉について説明をしなくてはならない。純朴とは、心の表し方だ。むろん文学的な表現をするという意味ではなく、こちらの気持ちをわかりやすい言葉で、率直に相手に伝えるという意味である。

ビジネスの相手と「純朴で簡潔」な文章によるコミュニケーションを継続していき、それが共通の土台となると、強固な信頼関係が生まれることになる。

冒頭で触れたベーリンガーインゲルハイム社と弊社は40年にわたる信頼関係を維持しているが、ドクター・バンキがチェアマンの時代、一度だけ両社の間に行き違いが生じたことがあった。問題の処理を命じられた私は、ドクター・バンキに宛てわずか2行の文書を送った。すると、ドクター・バンキからすぐさま返信があり、そこにはたった1行、“Agree.”と書かれていた。

これ以上の信頼に満ちた文章を、私はいまだかつて読んだことがない。

※すべて雑誌掲載当時

(山田清機=構成 相澤 正=撮影)
【関連記事】
刺さるビジネス文「上司がすべきたったひとつのこと」
35までの「英語、会計、PC」、35からの「論語、正篤」:帝人社長
若手からOBまで、帝人式・徹底の「人財」育成法
伝達センスを磨く「朝5分」ケータイメール習慣
<R・レポートの秘密>裏づけある「サプライズ」の連発で期待感を煽れ -クレディセゾン社長 林野宏氏