東日本大震災を教訓に、企業はBCP(事業継続計画)を一段と重視している。特に生命線となるのは、受発注・財務・顧客など多領域に及ぶ膨大な量の情報、もしくはICTシステム自体を含めてのDR(ディザスタリスカバリー=災害復旧)の強化だろう。そこで「データセンター(DC)を活用し始める」「より安全性が高い地域のDCへ乗り換える」といった企業も見られるのが現状だ。

そうしたなか、いまBCPやDRを考える企業から注目を集めるエリアがある。「北九州e-PORT」だ。

災害が少ない北九州市
交通ネットワークも充実

多様な優位性をもつ北九州市が情報資産の保全をバックアップします

北橋健治●きたはし・けんじ
北九州市長
1953年生まれ。86年より衆議院議員として環境委員長、地方制度調査会委員、行政改革特別委員会筆頭理事などを歴任する。2007年より現職。

北九州市は2002年から「北九州e-PORT」の構想を推進し、DCも積極的に誘致してきた。実際にその運営を行う事業者によると、BCPやDRは取り立てて新しい概念ではないという。しかし以前は少なからぬ企業が災害に対する実感を欠いており、具体的な動きは鈍かった。それをまさに一変させたのが、東日本大震災である。以後、データ移転などに関する引き合いが急増。主なニーズは3つあるという。「自社運営のシステムを丸ごとDCに預けたい」「東京のDCを利用していたが、関東以外に預け換えたい」「リスク分散のため複数地域の施設を利用したい」──。

これらの声に対し、「北九州e-PORT」は有力候補となるはずだ。その最大の理由を北九州市の北橋健治市長が説明する。

「日本の近代化は石炭と鉄鋼から始まり、日本初の官営製鉄所は1901年、現在の北九州市八幡東区で操業を開始しました。なぜ北九州だったのか。その大きな要因は、地震災害が少なかったことです。私たちも江戸時代以降を再確認しましたが、大地震や大津波の記録はありませんでした」

ただ九州となると台風は気になるが、「幸い当市を台風が直撃する例も、これまでほとんどない」と北橋市長はいう。

一方、災害リスクの最小化や分散化を突き詰めれば、今度はデータの置き場所が日常業務の本拠地から離れ、社員が出向くには不便を強いられるが、その点でも北九州は優位性を誇っている。

「例えば東京や大阪のオフィスから出張なさることもあるでしょう。当市なら、24時間運用可能な北九州空港をはじめ、新幹線、高速道路、フェリーなど多様な交通ネットワークが整っています。さらに国内各地はもちろん、アジア諸国との相互アクセスも抜群です」

充実のICT基盤をもつ
「北九州e-PORT」

先端の機能をもったデータセンター(DC)が集積する北九州市。高まるニーズに応えるため、新規の建設も着々と進められている。

では北九州市にDCの集積を促した「北九州e-PORT」とは? このプロジェクトは、海の港(seaport)、空の港(airport)に続く「情報の港」を整備し、ICTサービスを電気や水道のように、いつでも簡単・便利に使える社会づくりを目指すというもの。DCのほか、情報倉庫(ストレージ・マネジメント・センター)やコールセンターなども進出している。

また、市内の情報産業振興を目的とする市の外郭団体、ヒューマンメディア財団が、役割の1つとして「北九州e-PORT」の発展・利用も推進。北橋市長は、同財団についてこうも述べる。

「財団は、高度なICT人材の育成・発掘にも力を入れています。代表的な事業が『IT大学校』で、質の高い研修を随時開催しています。過去7年間に延べ7000名以上が受講し、知識や技術を向上させました」

「北九州e-PORT」に備わったICT施設やサービスを利用するうえで、確かな技術に裏打ちされた地元の人材力はきわめて心強い。加えて北九州市は、「オフィス立地補助金」など企業立地に関する助成制度が充実。DCのユーザー企業が現地にオフィスを設け、スタッフを置く場合には大きなメリットだ。