後輩のみんなにも、やりたいことをやってほしい

新沼理奈さん(大船渡高校3年生)。

新沼理奈(にいぬま・りな)さんは大船渡高校3年生。「家は地震で壁にヒビが入っていてまだ直していません。父は機械の内部を作る仕事をしています。母はマイヤで最初レジ打ちから始まって、今は営業本部で働いています。22歳の兄が1人いて、仙台の専門学校に行って、フリーターです」。

新沼さんは大船渡高の「文IIクラス」。文Iと文IIってどう違うのですか?

「文Iは主に国公立大を目指す人たちです。文IIは私立や短大、専門学校、就職などを志望する人です。文IIでもセンター試験を受ける人もいますが、ほとんどの人は受けません。ちなみにわたしも受けません」

取材後の10月末、新沼さんは仙台にある幼児保育の専門学校に合格した。

「保育士になりたいんです。中学校の時からやってみたいと。きっかけは中学校の時にお会いした保育士の先生です。そのとき、まだ将来の夢とかすごい迷っていて……。ちょうどその頃に学校で職業体験があったんですよ。そのときに保育園にお邪魔して。それまでまったく保育士という仕事は考えたことがなかったんですけど、『ちょっとやりたいかな』って思うようになりました。わたしが行く学校には、保育士養成科(2年)と幼児保育科(3年)があって、わたしは幼児保育科に入ります。保育士養成科は幼稚園教諭の資格が取れないんですけど、わたしが入る学校は、短期大学の通信教育を受けて幼稚園教諭の資格を取得することができるので、3年は長いと思いましたが、こちらの科を選択しました」

大船渡高は地域有数の進学校だ。ここまで話を聞いていても、国公立を目指せという先生たちの声が聞こえてきそうな学校だ。そういう学校で専門学校に進む新沼さんには、最初の頃、ちょっとした躊躇があったという。

「入学当初は、専門学校志望だと先生たちに進路指導で見放されるかも……と思っていたんです。でも、先輩たちに話を聞くと、そんなことはない、大丈夫だってわかって、3年生になるときには文IIに進みました。先生たちがどうのこうのというより、結局は自分次第だと思っています。後輩のみんなにも、やりたいことをやってほしいです」

3年生になる前に進路を決めろというのは、ちょっと早い、ちょっとキツいと思ったことはありませんか。この問いに対する答えは、進学校ならではの難しさをこちらに感じさせるものだった。

(次回に続く)

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