たった1枚の展覧会の案内状でも「駆け付けなければならない」という気持ちにさせられる時があります。2003年、当時、江戸川橋にあったアップリンクギャラリーから送られてきたDMのハガキがそうでした。それは今では、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気者である名和晃平が東京で行った初個展の案内状でした。そういう、言わば気になるDMハガキはだいたいバッグの中に入れて置いて、仕事で近くまで足を運んだ時に見るようにしているのですが、その時はあいにくなかなか近くまで行く用事がなく、雨の個展最終日の終了時間ぎりぎりに飛び込んでようやく見たのでした。久しぶりに「これは将来有望!」と確信しました。帰り際にギャラリーの人にお願いし、名和さんに私の感想を伝えてもらいました。

名和晃平 PixCell-Elk 2008 ©豊浦英明 / Hideaki Toyoura Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE
写真を拡大
名和晃平 PixCell-Elk 2008 ©豊浦英明 / Hideaki Toyoura Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

実は名和晃平のその時のDMハガキの作品は、鯉のフィギュアを全部ビーズで覆ったものでした。大小のビーズを組み合わせることによって、中の鯉の形がはっきりせず、不思議な違和感のあるものでした。物凄く近い距離に在るのにはっきりとしない、そのことが現代という時代を表現していると感じたのです。後日、名和さんに質問したところ「中身は全部、インターネットで入手している」とのこと。なるほど、と思いました。しかし驚くのはこの先でした。

名和晃平は、実は5つのシリーズを持ち、それぞれの作品の現れてくる形が違っているのです。インターネットで集めたいろいろな品物をビーズで覆い尽くす「ビーズ」、ボックスに品物を入れてプリズムによって中の物を虚像に変える「プリズム」、泡が浮かんでは消える「リキッド」、高温で溶かした接着剤を使い、そのまま壁にドローイングして固めてしまう「グルー」、発泡ポリウレタンの泡で大きな立体作品を出現させてしまう「スカム」。

共通しているのは作品の表面に何かしらのエフェクトを加えて、質感を変化させてしまうという点ですね。見る人に「触ってみたい」という衝動を与えてきます。一人のアーティストで5つの変身をしている、という点でも非常に新しさを感じます。名和晃平の登場は、まさに現代アートの新しい世代の登場を告げるものでした。X世代(Generation-X)の代表格が名和晃平として刻まれるはずです。