しかし、あわよくばオーディションに合格してデビューするというスピード感からすれば、宝塚は芸能界への登竜門としては遠回りだ。舞台で訓練を積んである程度成功した後に、いろいろな形で芸能活動をしようとしても舞台が中心になる。そういう意味ではテレビやCDといった華やかな表舞台よりは、かなり地道な活動が主流になる。

いずれにしろ子供が何を目指すかによる。「本当に何をやりたいの?」と突き詰めたときに、歌が好き、踊りが好き、芝居が好きとはっきりした目標があれば、音楽学校の教育をしてくれる宝塚のほうを勧めるべきだろう。AKBなどアイドルになりたい子の中には、芸を磨きたいということよりも、テレビに出て有名になりたいと考えている娘が多い。そういう子にはアイドルの泡沫的な人気を教え、「そういう生き方はどうなの?」と問うてみるのが大事ではないか。あるいは「国民的美少女」でグランプリを取る、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」でスカウトされるといったような、外部からタレント性が認められることを条件にするのもいいかもしれない。

AKBと宝塚ではもともとの志向も目的も違う。アイドルの置かれている状況をきちんと説明し、自分の進路についてきっちり娘と話し合うことが大切である。

法政大学社会学部教授 稲増龍夫
1952年生まれ。東大大学院修士課程修了。専門分野は社会心理学、メディア文化論、現代若者論。著書は『アイドル工学』など多数。
(構成=吉田茂人 撮影=小川 聡)
【関連記事】
AKBを見下す人が出世しない理由とは?
宮田亮平―息子が芸術家になりたいと言い出した
お父さんは気がつかない思春期の娘が傷つく言葉【1】
望月明美―キャバクラ嬢に憧れる娘
初音ミクに世界中のファンがつく理由