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図1 気が利く人を構成する3要素

柴田さんの場合、祖母の日々の立ち居振る舞いや、母・和子さんがお客さまを思い懸命に働く姿などが貴重な記憶として頭のなかにインプットされ、気が利く人に育っていく栄養素になったのだろう。

そして、錦織さんが指摘する近接領域の能力には「記憶・経験」のほかに、「メタ認知」と「自己効力感」がある(図1参照)。メタ認知は全体を俯瞰して見ることのできる能力で、そこから相手にとって何が喜ばしいのかを見通していく。その能力の萌芽は5歳前後から出てくる。また、自己効力感は「自分はできる」という気持ちを維持する能力で、「先の『記憶・経験』『メタ認知』と組み合わさって気が利く能力が形成されていきます」と錦織さんはいう。

柴田さんの営業の特徴の1つとして、「お客さまの話を聞くことに徹する」ということがある。メーンに扱うのは億円単位の役員保険。「私という人間を理解してもらうことなくして加入してもらえません。それには、まずお客さまのことを理解することが大切なのです」と柴田さんは話す。

コーチングの指導やカウンセリングを行っているゾムの松下信武社長はこの点に特に注目し、「気が利く人の共通点の1つがエフォートフル・コントロールに長けていることです。これは自分の気持ちを管理する能力で、逆に気が利かない人はこの能力が低いといえます。営業現場ではどうしても売り込もうとする気持ちが先走ってしまうもの。柴田さんはそんな気持ちをきちんと管理できているのでしょう」と分析する。

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また、心理学者の伊東明さんが気を利かす能力として重視しているのが「共感力」である。よく混同されがちなものに「同情心」があるが、これは辛いときや悲しいときにしか働かない。一方の共感力は辛いときも、楽しいときにも働く。文字通り、相手の気持ちを共に感じる力なのだ。

「相手の気持ちを察して、何か欲していることがわかれば、その場でためらうことなく行動を起こす。ある意味で気遣いは“瞬間芸”でもあるのです」と伊東さんはいう。