謙虚というか淡白な山田とは違い、10年近くも独立の野心を温めてきた男がいる。メガバンクで営業事務を担当している北村昭(仮名、37歳)だ。

入社から7年目までは同期の中でもトップクラスだったと自己評価する北村。出世コースと言われる出向先での勤務を史上最年少で経験し、社内では評判の有名人だったと遠い目をする。

「他部署の人に会うたびに『おまえがあの有名な!』という顔をされる。気分良かったね。僕の絶頂期だったよ」

しかし、5年間の本社での内勤を経て、地方支店での営業職に戻されたときから北村の凋落が始まる。

「新人のときに3年間だけ営業を経験したから安心していたんだ。でも、5年間で業務フローが一変していた。担保がなくても融資できる代わりに、条件をきっちりと詰めていかなくちゃならない。正直言って、営業成績は振るわなかったね」

北村がここで「なにくそ」と奮起することはなかった。

「バカバカしいと思っちゃったね。上司は熱っぽくノルマ達成を叫ぶ。くだらないよ。会社のために自分を犠牲にしたくはない。もちろん、表面的には一所懸命やるけどね」

そんな北村の面従腹背を当時の上司は鋭く見抜いた。

「『おまえは言っていることとやっていることが違う。行動に実が伴っていない』とガンガンやられたよ。仕事はできるけどパワハラ野郎だったな。顔も見たくない」

すっかり意気消沈した北村が救いを見出したのは、資格試験の勉強だった。都内に住む妻と離れて単身赴任中のため、自由時間のほとんどを勉強に捧げている。宅建やCPAは取得済み。今、税理士資格に挑戦中だ。

「まだ1科目もクリアしていないけれど、45歳までに合格するつもり。今までの銀行業務もアピールすれば税理士として成功できるんじゃないかな」

夢のような野心を膨らませる北村に、「税理士試験の勉強で得た知識を銀行業務に生かす」という発想は皆無だ。

バンダイの上床はカードゲームの開発、IBMの清水はコンサルタントの人材育成。それぞれ具体的な専門分野を持っている。40歳前後で、業界では誰もが認めるプロフェッショナルになっているか否かが、「中核社員」と「その他大勢」を見分けるポイントなのかもしれない。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(梅原ひでひこ、田辺慎司=撮影)
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