2012年12月28日(金)

クワイ――収穫も皮むきも手間がかかるが正月に欠かせぬ野菜

dancyu 2012年1月号

福地享子=文
【つくり方】
クワイ7個の皮をむいて、すりおろし、溶き卵1個分と泡立て器でよく混ぜ合わせ、軽く塩加減する。低温の油にスプーンですくっては最後に温度を上げて、きつね色に揚げる。手前は姫クワイを丸ごと素揚げしたもの。

やっちゃ場の入口あたり。日溜まりにいくたりかの若い衆。空き箱に腰をすえ、野菜の皮をむいている。里芋だったりミニ大根だったり。ときおりはじける笑い声。小包丁を握った手だけはせわしく動き、ひしゃげた大きなボールにその成果が山となっていく。野菜はいずれもどこぞのお節のお重に納まるはず。

暮れを迎えたやっちゃ場で、ほんの少し前まで、お節用の野菜むきは、ときに市場に託されたものだ。クワイなぞは、その典型。年のいった方に聞くと「六方むきに鈴クワイ。松かさはむずかしかった」と、そんな思い出が返ってくる。

縁起物に彩られるお節のお重。まあるい形にグイッとりっぱな芽をつけたクワイの姿は「芽が出る」になぞらえ、そのひとつ。丸い部分をむくには、包丁をきかして松かさみたいに形づくったり。くちなしで黄色に煮含めると、ホクホクと栗みたいな食感とそこはかとない苦み。お屠蘇の合いの手にも、いい味だ。

そのクワイも、今ではお節用に加工した中国からの輸入品が幅をきかせているが、伝統はそうやすやすとは消えっこない。正月に向けてあちこちで栽培されている。なかでも生産量日本一を誇るのは、埼玉県で、古くから綾瀬川流域で栽培されている。かつてこのあたりは湿田地帯。クワイが育つには養分を含んだ田んぼと豊富な水が必要なのだ。

そんな埼玉県の主産地、旧新田村(草加市)を訪ねたのは出荷を目前に控えた11月初旬。泥田からスイッと伸びた茎の先につけた葉の形は、両耳をおったてたキツネのお面に見えた。昔のひとは、この形を田畑をすく鍬くわに見立て、クワイの名がついたという。地中では「ほふく茎」と呼ぶ茎が這うようにのびる。その先で丸くふくらむ塊茎、先っぽには芽がつき出る。それがクワイとなる。

12月早々に始まるクワイ掘りは、芽を欠かさないように手さぐりで。風は冷たく、腰をかがめての作業は、難儀このうえない。おまけに都市化による水質環境の悪化で、訪ねたクワイ農家の駒崎昌紀さん宅の田んぼの水は、地下60mにも掘り下げた井戸から得ている。昔と同じ水は、そうまでしなくては得られない。伝統を守るということは……。柄にもなくしんみりしたものだった。

今やクワイはお節というかんむりがついた特異な野菜になりつつあるが、あのホクホクした食感に注目したら、クリームシチューに入れても、案外と美味。皮をむいてすりおろし、卵で溶いて揚げると、フワフワしていくらでも食べられる。思えば正月に1回食べたぐらいで芽を出そうなんて、虫のいい話かも。せいぜい食べること、ですよね。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。