連続する「想定外」にどう備えればいいのか

さて、ここまで台風12号をめぐる2つの被災地についてレポートしてきた。それらは十津川村においては「123年ぶりの豪雨災害」であり、那智谷では過去に事例のない大規模な水害だった。豪雨を体験した人たちは、一様に「今までに経験のない雨だった」と口をそろえる。しかし各自治体の防災担当者や対応に当たった国交省の技官、さらには研究者に話を聞くと、それとは少し異なる感想を抱いた関係者も多かったようだ。

例えば十津川村の塞き止め湖への対応を指揮した近畿地方整備局の細川雅さんは、「あくまでも現場の感覚ではありますが、雨の降り方がこれまでと変化しているという印象が強まった」と話す。

「近年の局地豪雨では、時間雨量100ミリという規模が当たり前になってきています。5年前に『50ミリの雨が増えている』という話をしていたのに、それが今は100ミリの雨の話をしている。紀伊半島での豪雨はその不気味なケースの1つだったという印象があるんです」

那智勝浦町の太田川上流にある小匠ダムで非常放流が行われたとき、出張所長を務めていた上地順さんも言う。

「この治水ダムは昭和34年に完成したのですが、連続雨量で約400ミリを想定しています。実際に完成以降、下流での水害はかなり減りました。それが11年前に700ミリが降り、今回は1000ミリを超えているわけですから、ダム建設当時は全く想定のしていなかった雨が次々に降っている。それが現場の感覚です」

こうした「雨の降り方が変わってきているのではないか」という感覚は、12年7月に発生した九州北部豪雨を経て、彼らの中でより強まることになった。

停滞した梅雨前線に海からの湿った空気が流れ込んだ同豪雨では、7月11日から12日にかけて時間雨量100ミリ超の雨が降り続き、坊中雨量観測所で3時間雨量が観測史上最多の315ミリを記録。熊本地方気象台が「記録的短時間大雨情報」を一晩で9度発令するという前例のない事態となった。この災害では死者・行方不明者が30人を超え、60軒近い家屋が全壊した。

気象庁の統計データによればこの100年の間、年間の降雨量に有意な傾向は見られない一方、降雨日数は明らかな減少傾向にある。それは一度に降る雨の量が増えていることを指し、気象研究所の尾瀬智昭さんは「温暖化によって大気の安定度が増し、水蒸気が地表近くにたまりやすくなっている」とも指摘する。

「その結果、積雲の発生自体は減少するのですが、降るときはどーんと降る。台風も減るけれど、1つひとつの規模が大きくなる――といった『嫌な天気』が増えていく可能性があるわけです」

温暖化や気候についての研究は難しく、長期的な傾向が実際にどれほど現実に即したものになるかについては様々な意見がある。しかし、2012年のように渇水による水不足が発生する半面、2年連続で時間雨量100ミリ超の水害が実際に起こったという符合が、「こうした雨は、今やどこで降ってもおかしくはない」という彼らの懸念をさらに強めているのだ。

「本当に雨の降り方が変化しているのであれば――」と細川さんは言った。

「これまでの設計思想、考え方を見直さなければならなくなる。100ミリ超の雨となれば東北の震災がそうであったように、(限られた財政の中では)社会資本整備事業をそれぞれのレベルに分け、これはやる、これは逃げる、という考え方を導入しなければ当然できないでしょう。その意味でこれは日本全体の河川に関係した話なのだと感じています」