顧客利便性を追求し進化し続けるアマゾン

そうした新しい業態の代表格はアマゾンであろう。1994年創業のAmazonも最初から現在の競争力を持っていたわけではない。最初は本の注文を受けてから取り次ぎに送るモデルからスタートしているので、本がいつ届くかも確定できない注文受付サイトのようなものだった。やがて巨大な倉庫&IT投資を行い、IT武装された物流システムの強みを活かし、当日配送を実現し、強力なリコメンドシステムも実装したECサイトとなった。当然価格競争力も抜群である。そして現在書籍についてはキンドル端末により、顧客に著者からデジタルでダイレクトな販売を可能にした。このような絶え間ないITと物流への投資(現在でも販管費の7割をITと物流に投資している)による進化が現在の競争力を作っている。

その結果EC事業者間の戦いでは圧倒的強さを見せて、スマホの普及により、いよいよリアルな既存店舗との全面戦争に突入しつつある。米国では「ショールーミング」と言われる店頭でスマホを使い、商品を触って確認した後に、商品の値段をチェックし安ければアマゾンにその場でオンライン注文をするという行為が増加し、小売りの店頭の顧客を奪い始めている。そのためウォルマートなどがキンドル端末を販売しないという方針をだしており、日本の家電量販も同様の反応をしている。

もはやネットとリアルを別のビジネスとして分ける段階は終了した。O2O(Online to Offline)は顧客の奪い合いでもあり、自らの競争力を最大化し、顧客に選ばれたものが勝つという戦いの幕開けを意味する。その戦いにITを活用しないことはもはやあり得ないだろう。アマゾンが誕生して間もない頃にも「クリック&モルタル」という同義語は生まれていた。しかし当時は自宅のPCとリアルな店舗という組み合わせだったため、せいぜい店頭受取、店舗が無い地域への対応、店舗が営業していない時間の対応などぐらいしか議論されていなかった。

しかし今回は顧客にとってもっとも最適な購買プロセスを実現する仕組みの議論である。「買い物」という行為そのもののイノベーションである。例えば米国では7000店のスターバックスでスクエアという決済サービスが導入されている。このサービスはスターバックスの店舗のそばで自分のスマホで注文し、決済まで済ませることができ、あとは店舗で商品を受けとるだけである。

米国におけるスマートフォン決済サービススクエアとスターバックス
http://blogs.itmedia.co.jp/borg7of9/2012/08/geofence-d366.html

もはやネットで購入しているのか店舗で購入しているのか区別することは無意味である。顧客は自分にとってより利便性の高い方法を選択すればよいだけである。スマホ決済であれば顧客別に価格を変えたり、時間別に変えたりすることも簡単である。いずれスターバックスの商品とアマゾンの書籍をセットで割引販売するようなこともあるかも知れない。コーヒーと書籍も相性は抜群そうである。