グローバルソリューション事業部 上席コンサルタント 
平中直也 

1966年、鹿児島県生まれ。89年、鹿児島大学法文学部卒業、野村総合研究所入社。2010年より現職。主に外資系金融機関の取引システムを担当。日英独の3カ国語を操る。

 顧客との会話をいかにスムーズに進めていくか――。野村総合研究所の上席コンサルタント・平中直也が持つ手帳の機能は、その一言に収斂される。メリルリンチ、UBS、ドイツ銀行、モルガン・スタンレー……。平中が担当するのは、外資系の金融機関だ。

「国際的な動きや新しいトレーディング手法、国内の金融制度の変更……。めまぐるしく変わる金融業界の動向をどう追いかけ、理解するか。お客様に信頼していただくには、すべてを把握しなければならないんですよ」

分厚いシステム手帳を開くと、几帳面な文字が整然と並んでいた。スケジュールや専門用語の解説、金融商品取引法の条文、そして、手書きの年表。年明けに合併する金融機関に対する各社の動きやそれにともなうシステム変更などを独自にまとめた年表である。

「お客様やメディアからは様々な情報が入ってきます。けれども、そのままでは自分に必要な情報かどうか判断できない。手帳に書き出すことで頭のなかを整理できるんです。もし、忘れてしまったとしても、手帳さえあれば、お客様の疑問にすぐに答えることもできますから」

手帳を持ち歩くようになり、15年が経つ。きっかけはシステム開発から営業への異動。当初、顧客が話す専門用語がわからなかった。平中は「恥ずかしかった」と振り返る。

話題についていけるようにと週末、顧客との面談や会議中にとったメモを整理し、新たな情報や知識を手帳にまとめるようになった。リフィルに書き出して手帳に差す。必要のなくなった部分は抜いて保管する。手帳のアップデートを繰り返した。

「使い慣れているからどこに何を書いたかすぐわかるんですよ」と金融商品取引法の条文を記したページをすばやく開いてみせた。「実をいうと、手帳に書いたことは大体覚えてはいるんです。手放せないのは心配性だからかもしれませんね」。

近ごろ、同僚のコンサルタントの多くが、ノートパソコンを開きながら顧客と面談する。平中自身もノートパソコンを持ち歩いた時期もあったが――。

「お客様の前で画面を開きキーボードを叩くのは距離を感じるんです。壁があるみたいで会話に集中できなかった」

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常に持ち歩く3冊。右から黒革のシステム手帳「FILOFAX」、社内メモ用のリングノート、客先で開く綴じノート。革製カバーを付けると支給品のノートにも重厚感が出る。

面談で使用するのは革のカバーを付けたノート。見開きびっしりにメモがとられている。一度の商談でそれくらいになるのだという。スケジュールを見ても、ひとつの面談に十分に時間をとっているのがわかった。

最近、手帳に追加したのはフランス語と中国語の簡単な例文集。入社してから英語とドイツ語を習得した平中だが、フランス語と中国語は話せない。顧客との面談で「せめてあいさつくらいは」という気持ちからだ。

「前例がないからと渋る総務を説き伏せて作ったんです」と笑って平中は自身の名刺を裏返した。「Naoya Sebastian Hiranaka」。外国人の顧客が姓を覚えにくいだろうという気遣いから「Sebastian」というニックネームを自ら名乗った。

もっとも大切にしているのは、顧客との会話である。平中はいう。 私自身が商品なんです、と。(文中敬称略)