求められる「熱意」

当然、ネスレにおいても、学生ならではの新奇性や画期性が求められる一方で、その実現可能性の両立が必要になる。けれども、このどちらかを期待するというよりも、学生の「これをつくりたい!」という熱意に期待したいという。今回のサクラサク出前セットについても、最初に確認したのはどうして学生がこれをつくりたいと思ったのかという点についてであり、この熱意こそが学生らしいアイデアであったり、多少の困難を乗り越えて実現可能性につながったりすると考えられている。

確かに、それをどうしてもつくりたい、どうしてもこれがいいものだという確信があれば、学生であろうと実務家であろうと、その実現可能性をさらに模索するに違いない。Sカレやユーザー参加型製品開発で期待されているのは、単にアイデアのよさというよりも、やはり、その実現可能性までが検討された質の高さにあるということだろう。

このレベルに到達していれば、当然それをみただけで模倣するというわけにはいくまい。大事なことは、アイデアそのものではなく、その具体的な実現の方法ということになるからである。この点は、経験のない学生にとっては難しい課題が突き付けられていることにもなるが、せっかくの機会だからしっかりと考えてみるのも悪くない。今年からSカレに参加している阪南大学の水野ゼミの活動ルポがネット上にのっている 。参加する学生の苦労と成長がよくわかる。

→「目指せ!未来の敏腕マーケッター 経営情報学部 水野研究室の挑戦」
http://www.hannan-u.ac.jp/zitugaku/mrrf43000000jejn.html

このように考えると、Sカレもユーザー参加型製品開発も、改めてその方法や考え方を確認できそうだ。第一に、Sカレもユーザー参加型製品開発も、求められているのは新奇性や画期性のあるアイデアそのものではない。それを求めると、平凡なアイデアに失望するか、アイデアが盗まれてしまうということを危惧することになってしまう。むしろ、Sカレやユーザー参加型製品開発では、企画開発と販促のプロセスが同期化していることを通じて、その中で様々な人々が価値を見いだしていくことに注力した方がいい。

第二に、そうであるとすれば、具体的な商品企画についても、いかにしていいアイデアを得るのかということだけではなく、そのアイデアをいかにして実現するのかという方法についての検討も必要になる。それは単に製品上のスペックや機能実現という限られた問題に限らず、より広く、材料調達の問題や販路開拓の問題までを含む。ようするに、ビジネスモデルの立案が求められるということである。この点については、『1からの商品企画』というテキストとしてまとめられているとともに、コラムにはSカレのプロセスそのものが記載されている。

■『1からの商品企画』
西川英彦・廣田章光/碩学舎/2012年 

 

そういえば、昨年度のキットカットの企画として、僕たち首都大学チームはUSBメモリに写真を入れて送るというアイデアであったり、誰かに送るのではなく、自分自身に送ることを前提として、応援文や目標文をサーバー上に保存してもらい、例えば1年後にタイムカプセルとして送られてきたりするというアイデアを考えた。アイデアそのものは面白かったと思う。大学に入ると、苦しくも頑張った入試のことを忘れて遊び呆けてしまいがちだが、そんなときに、当時の自分から手紙が届くというわけだ。

けれども、サーバー上に保存したり写真をメモリに入れて送り直したりするという作業をどのように実現するのか、そのコストをビジネスモデルとしてどう解決するのかという点については全く議論ができないままになってしまった。時間をかけて考えるべきだったのは、この点だったような気がしてきた。

熱意を持って実現可能性を問うことができれば、商品企画の説得力も増すことになるだろう。それは、より多くの支持者を獲得することはもとより、実際に開発を進めることについて、協力してくれる企業に対するアピールにつながる。開発段階と販促段階が同期しているということの意味もより見いだせる。

もっといえば、ここまで熱意があってこそ、ユーザーはまさに開発者や生産者として開発に参加できることになる。ユーザー参加型製品開発というのは、究極的には、ユーザー側と開発側といった区分を前提に議論することをやめるということなのかもしれない。