ところが退去日。池田さんが物件に赴くと、そこはすでに、もぬけの殻。女性は夜逃げしてしまっていた。

「『明け渡し命令』を求め、民事訴訟を起こしましたが、すでに八木とは連絡が取れず、当事者不在で結審まで5カ月も……。その間は部屋に入ることすらできず、悶々とした日々を過ごしました」

その後も災難は続いた。結審後に部屋に入れば、そこには八木が残したゴミの山。壁紙もボロボロ……。残棄物の処分やクリーニング、リフォームをして、再び部屋を貸せるようになったのは、07年12月。八木に部屋を貸した4月から家賃収入は一切なく、事実上の損害は200万円近くにのぼる。

一方、両親が管理してきた物件10棟を、05年12月に引き継いだのが、千葉県在住の風見智明さん。それだけの物件をタダ同然で手にしたのだから、羨ましい話かもしれないが、風見さんが直面したのは、厳しい現実だったという。

「それまでは実質的に税理士任せ。その頃から空室率の高さに悩まされていて、月々の返済にも困る始末でした。引き継ぐ前に資金を借り換えて返済額を減らしてはいたものの、空室対策という抜本的な対処は何もできていない状況でした」

問題だったのは、東京都下に持つ116戸のワンルームマンション。空室率は15%。到底、優良資産とはいいがたい。

「空室率悪化を加速させた背景は、計20室という法人貸し。人材派遣数社に貸していましたが、昨今の派遣切りの影響で契約更改時に賃貸の一部解約が相次いだのです。派遣切りがこんな形で影響してくるとは思いもしませんでした」

不良資産なら売却すればいいのだが、空室率の高い物件は安値でしか売れない。解決策は、入居率の改善しかない。

途方に暮れた風見さんは、不動産管理のセミナーに参加。そこで、ノウハウはもちろん、大家といえども積極的に物件管理に携わる必要があると学んだという。

「法人貸しに頼っていると、景気の変動に家賃収入が左右されます。今は、個人向けにシフト。物件の近くには大学が多いので、若者向けに内装も工夫して、空室率悪化に歯止めをかけていきたい」