特別扱いは不要
「飲み会も大歓迎」

外国人社員の採用を増やす企業が増えている。ファーストリテイリングは2010年の新卒採用のうち約半数、ローソンでは約2割を外国人が占めた。その中でもパナソニックは、経営戦略としてダイバーシティ(多様性)を掲げ、外国人社員の増員に積極的だ。2007年から本格的に採用を始め、現在、国内では約220人の外国人社員が勤務している。同社の大坪文雄社長は、来年度、中途などを含め約1100人の外国人を採用する方針を掲げる。採用全体に占める外国人比率は約8割となる。(※雑誌掲載当時)

隣席に外国人社員が座ったとき、どのような対応が必要なのか。ひとつの鍵は、受け入れ側と同じく、外国人社員も大きな不安を抱えて入社してくるという点だ。多様性推進本部の松田聡子推進事務局長によれば、「外国人社員にアンケートを取ると、『他の外国人社員が社内のどこにいるかわからず、情報共有できなくて不安だ』という回答が目立つ」という。

全社集中契約センター・半導体契約チーム主事のニコルソンさん。仕事の9割は日本語という。

単身で入社した外国人社員は他部署の同胞と交流する機会が少なく、ややもすると孤立しがちだ。このためパナソニックでは、外国人社員同士をつなぐ社内ネットワークを整備。Web上に外国人社員の配属情報を開示し、出身国の同じ社員を探しやすくした。また社内規定や各種経費の精算方法、年金や保険などに関する情報を数カ国語で掲載。このほか年に一度、「イリマジロ・ネットワーキング」という外国人社員向けのイベントを開いている。同じ母国語を話す外国人社員のほか、所属部署の日本人上司や同僚も参加し、部署を超えた交流を進める。

イギリス出身のベン・ニコルソンさんが、同社の半導体契約チームで働き始めたのは3年前のこと。来日は18年前で日本人の妻をもつ親日家だが、6年前に再来日し、あらためて「日本の職場」で勤め始めたときには戸惑いもあった。

「イギリスのオフィスにも日本人はいましたが、雰囲気はリラックスしたものでした。それに比べると、日本の職場には緊張感があり、みんないつも忙しそう。業務や社内のシステムについてわからないことがあっても、周囲に話しかけると邪魔になるんじゃないか。それが心配でした」

7人いるチームはニコルソンさん以外全員日本人で、約30人を擁するグループ内でも外国人の同僚はアジア人が1人いるだけ。気軽に相談できる相手がいない――。そんな不安を解消したのは「上司のオープンマインド」だった。

「日本語にしづらいのですが、何を質問しても嫌な顔をせず答えてくれたのは嬉しかった。小さなつまずきを超えられると、自分の専門エリアの仕事にも力が入る。人に恵まれたと感謝しています」

多様性推進本部の松田聡子さん。

いまでは終業後に自ら企画して上司や同僚と居酒屋で酒を呷ったり、野球観戦に行ったりする。

「飲み会も月1回ぐらいの頻度ならば大歓迎」(ニコルソンさん)

ただ、戸惑う場面がなくなったわけではない。たとえば夏期休暇は自分のタイミングで長期間とりたいが、現状では全社一斉の休暇に合わせるしかない。旅行シーズンと重なるため、帰国の航空券は高くなってしまう。しかしニコルソンさんは、「だからといって特別扱いは望みません」と言い切る。

松田さんは外国人社員への接し方のポイントとして、「違いを認め合うこと」を挙げる。

「ほとんどの外国人社員は日本人と同じ環境で働き、意識を共有したいと思っています。ただし、われわれは外国人社員に日本人になってもらいたいわけではありません。その国の人らしく活躍してもらうことが、国際化を進めるうえで、組織の力を最も高める方法のはず。文化や習慣、宗教の違いを踏まえたうえで、オープンマインドで話し合うことが、違いを強さに変える要点だと思います」

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部=撮影)
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