30代の住まいづくりにおいて、「子育て」はメインテーマの1つ。よりよい環境で子供を育てるためには、どんな配慮が必要なのか。家族のコミュニケーションを高める住まいを提案する建築士の横山彰人さんにアドバイスをもらった。

横山彰人さん

株式会社 横山彰人建築設計事務所 代表取締役/一級建築士
1979年株式会社横山彰人建築設計事務所を設立。「間取り」が子供や家族関係に与える影響を研究し、家族のコミュニケーションを生かす住まいづくりを実践している。『住まいに居場所がありますか? ─家族をつくる間取り・壊す間取り─』(ちくま新書)ほか著書多数。
株式会社 横山彰人建築設計事務所 http://www.akito-y.com/

Q. 子育てしやすい間取りって?

いま、子育てのうえで住まいづくりはより大切なものとなっています。

従来、私たちの社会は「学校」「地域社会」「家庭」の3つで子供を育ててきました。しかし、いまや学校と地域社会は崩れかけており、コミュニケーションや協調性を教える場として家庭の役割が重要となっているのです。

子育てに向けた間取りの一番のポイントは「いかに子供とコミュニケーションできるか」ということです。コミュニケーションといっても、会話だけではありません。アイコンタクトや気配を感じあうことも重要なコミュニケーションです。そのための工夫や仕掛けをして、いつも家族を感じられる住まいをつくっていただければと思います。

例えば、最近ではセミオープン、フルオープンのキッチンが増えていますが、そうしたオープンスペースのダイニングキッチンなどに子供の居場所を上手に設けることで、お母さんは料理や洗い物をしながらでも子供と会話したり、遊んでいる姿を見守ったりすることができます。

2階に子供部屋を設ける場合は、1階との間で気配が遮断されないように工夫します。例えば1階リビングに吹き抜けを設け、2階の子供部屋には、吹き抜け側にも窓をつくってリビングとのつながりを持たせます。こうすることで1階から「ご飯できたよ」と呼びかけやすいですし、子供が夜遅くまで起きているかどうかも、窓の明かりで分かります。

Q. 子供部屋はどうつくればいい?

これまでは、子供部屋を与えることがステータスとされると同時に、自立を促すために子供に部屋を与えるという考え方から、子供部屋を設けるのは当然とされていました。

しかし、子供は1人ひとり、成長プロセスが異なります。私は、間取りにおける家族関係への影響を研究してきましたが、まだ親と川の字になって寝て甘えたい子供を、広くてモノがそろっている子供部屋へと無理やり隔離した結果、引きこもりや不登校につながったケースをたくさん知っています。また、子供部屋だけで勉強する子供より、リビングや家族との共有空間で勉強できる子供のほうが学力や社会性が高くなるといった傾向は、いまや広く知られていることでしょう。

私は「子供部屋はなくてもいい」とさえ考えています。もちろんあってもいいのです。ただし与える場合は、大人の部屋並みに広くする必要はなく、ベッドと机とクロゼットだけのシンプルなものが望ましいと思っています。つまり、基本的に寝るだけの部屋です。それだけなら、広さも2~3畳あれば十分です。一方で、リビングやダイニング、廊下や踊り場といった、みんなが使うスペースに学習スペースを設けてあげるとよいでしょう。そうやって「家中どこでも遊べ、学べる」工夫が大切なのだと思います。