2012年11月22日(木)

トンカツの衣はどんなアレンジができるか

プレジデントFamily 2011年11月号

大塚常好=文 市来朋久=撮影 塩出尚子=撮影協力
先生:東京家政大学教授 長尾慶子

今晩の肉はロースにしようか、それともちょっと奮発してヒレか。豚肉のうま味が衣に閉じ込められたトンカツはビタミンBが豊富で栄養も満点だ。このトンカツ、料理のポイントはといえばやはり衣。外はサクッと中はジューシーに揚げられる「裏技」はあるのか。

 

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衣のそれぞれの特徴を確認すると、違う食感のものが重なり合っていることがわかる。それらを一気に味わえるのが美味しさの秘密なのだ。
――衣の材料は、小麦粉、卵、パン粉の定番セットですよね。

 

先生はい、それが基本です。塩、コショウで下味をつけた肉に小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせてから、パン粉をつけ、衣を作ります。この流れを経て、油の中へジュワッと投入です。

――いつもこの小麦粉、溶き卵、パン粉の3ステップに手間がかかって、少し面倒くさいと思うことも。パン粉は、トンカツ特有のあのザクザクとした食感のために必要だと思いますが、小麦粉、卵は必要なのでしょうか?

 

先生卵と小麦粉の両方とも大事な役割があり、どちらも欠かせないものです。加熱する前の生の状態の肉に直接パン粉をつけようと思ってもつかない。その間を取り持つのが、小麦粉と卵なんですよ。小麦粉には水分を吸収する性質があるので、肉にまぶすと表面の水分や脂分を吸います。水分を吸収すると粘り気が出てのり状になって肉をコーティングします。
溶き卵は、小麦粉をまぶした肉にまとわせるとパン粉がくっつきやすくなります。また、揚げると、卵白のタンパク質が熱により固まることで、しっかり肉と衣をつなぐのです。

――たしかに衣と肉が離れてしまっていると美味しさが半減します。では卵と小麦粉は接着剤のため?

 

先生それだけではありません。食感や美味しさにも重要です。揚げ油に入れて加熱すると肉からうま味成分を含んだ肉汁が出てきますが、それを吸収して逃さないのが、のり状になった小麦粉。卵のほうは卵自体にコクとうま味があります。
揚げたてのトンカツを食べると、ザクザクとしたパン粉の食感の次に、卵と小麦粉の層がふわっとした食感を与え、最後に歯ごたえがある肉にあたる。トンカツは肉のうま味ももちろんですが、この歯触りも大きな魅力なんですよ。

――小麦粉ではなくサラッとした粉のかたくり粉ではだめですか?

 

先生粉には、小麦粉の薄力粉が一番いいはずです。小麦粉には、水分と混ざると粘性と弾力性を併せ持つグルテンというものができるタンパク質(グリアジンなど)が含まれています。かたくり粉はデンプンだけで、そのようなタンパク質は含まれていません。
 小麦粉の中でも薄力粉にはデンプンのほかに、グルテンタンパク質が8%ほど入っていて、この量が衣の食感にちょうどいいのです。タンパク質がもっと多く入っている強力粉では、粘弾性が強すぎて、油切れも悪く重たい食感になります。最近は、米粉を小麦粉代わりにしようと試みる人もいますが、グリアジンを含まないので、硬すぎてあまりお薦めできません。

――では小麦粉も卵もどちらも省略できませんね……。

 

先生面倒くさいという人には衣づけの3ステップを2ステップにする方法があります。小麦粉と卵と水を混ぜておいたもの(バッター液という)を、一気に肉に絡め、パン粉をつけるという方法です。

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大塚 常好